幕間|準備音
昼過ぎのライブハウスは、
まだ静かだった。
シャッターの上がる音。
機材ケースが床を滑る音。
ケーブルが引きずられ、
絡まり、ほどかれる。
ステージには、
誰も立っていない。
それでも、
仕事はもう始まっている。
「今日、二バン目から音出しです」
スタッフの声が、
フロアを横切る。
「了解です」
「立ち位置、いつもどおりで大丈夫ですか」
「はい。問題ないです」
短いやり取り。
言葉は少なく、
確認だけが進む。
フロアの端で、
アンプの角度が直される。
少し持ち上げて、
数センチだけ位置をずらす。
ギターが、
小さく鳴る。
開放弦を一度。
音を止めて、
ペグを回す。
もう一度。
今度は、
短いフレーズ。
チューニングの途中で、
音が切れる。
低い弦だけを、
確かめる。
「声、いきます」
マイクに向かって、
抑えた声。
「あー」
少し距離を変えて、
もう一度。
「……あー」
「はい、大丈夫です」
ドラムのリムを叩く、
乾いた確認音。
「モニター、キックお願いします」
低く一音。
間を置いて、
もう一度。
「大丈夫です」
ベースが一音だけ鳴り、
すぐ止まる。
モニターの電源が入る。
低く、
短いハム音。
派手なことは、
何もない。
ただ
準備が進んでいく。




