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幕間|楽屋
楽屋の隅に置かれた電気ケトルが、
静かに湯気を吐いていた。
「休憩、あと三分な」
ハヤテが言うと、
誰にともなくカップが集まる。
ヒナタは粉の量を少し迷ってから、
結局、いつもより控えめにした。
濃いのは嫌いじゃないが、
今は喉より頭を休ませたい。
「今日、音よかったよな」
コウタが何気なく言う。
「雑だろ」
「いや、雑じゃない。
荒れてるけど、ちゃんと前に行ってた」
ヒナタは返事をせず、
カップを両手で包んだ。
湯の熱が、指先からじんわり伝わる。
ハヤテは砂糖を入れず、
ミルクだけ落とす。
混ざる前の白い線を、
少し眺めてから、かき回した。
「なあ、終わったら甘いもん行かない?」
その一言で、
空気が少し軽くなる。
「珍しいな」
「たまにはいいだろ」
誰も反対しない。
たぶん、理由はいらない。
外からスタッフの声が聞こえる。
「準備お願いします」
ヒナタはカップを置き、
深く息を吸った。
さっきまでの何でもない時間が、
音の奥に、静かにしまわれていく。




