これなら、三人だ
夜のスタジオは、外よりも静かだった。
アンプのランプだけが、小さく光っている。
さっきの音が、
まだ耳の奥に残っている。
「……もう一回、いく?」
コウタがそう言って、軽くカウントを取る。
いつもより、少し遅め。
ハヤテはそれを聞いて、何も言わずにうなずいた。
スティックを構える位置を、ほんの少し下げる。
ヒナタは、ギターを持ったまま一瞬だけ目を閉じる。
歌う準備というより、覚悟に近かった。
最初のコード。
完璧ではない。
テンポも、まだ揺れている。
ハヤテのドラムは、驚くほど静かだった。
スネアもキックも、主張しない。
ただ、雪が落ちる場所を作るように、間を置いて叩く。
ヒナタが歌い出す。
声は、デモのときより少しだけ安定している。
でも、震えは消えていない。
コウタのベースが入る。
旋律をなぞらず、下から支えるだけ。
Aメロを抜け、サビに入る。
静かに 静かに
降り積もる リトルスノー
その瞬間、
三人とも、同時に気づく。
――あ、これだ。
誰も口にしない。
けれど、音が答えになっていた。
問題の一行。
この白さを
君が ほどいてくれたら
ヒナタの声が、ほんの一瞬だけ前に出る。
小雪のミックスが、頭をよぎる。
ハヤテは、そこで一拍、音を抜いた。
叩かない勇気。
その沈黙が、
歌を壊さず、深くする。
最後のコードが鳴り終わる。
余韻が、スタジオに残る。
誰も、すぐには動かなかった。
「……なぁ」
最初に口を開いたのは、ハヤテだった。
「これさ」
スティックを肩に乗せたまま、続ける。
「俺、叩いてて
ちょっと怖かった」
ヒナタが見る。
「触りすぎたら、
壊れそうで」
コウタが、静かに笑う。
「それでいい」
「壊さないようにやる曲は、
だいたい長生きする」
ヒナタは、ゆっくり息を吐いた。
「……これで、いい?」
コウタは即答しない。
ハヤテを見る。
ハヤテは、にっと笑う。
「うん。
これなら、三人だ」
その言葉で、
ヒナタの肩から、力が抜けた。




