俺たちの曲
スタジオのドアが閉まる音は、
いつもより小さかった。
ヒナタは何も言わずにUSBを挿す。
画面にファイル名が表示されるのを、
三人とも黙って見ていた。
コウタは腕を組み、
ハヤテはスティックを机に置いたまま。
誰も、急かさない。
再生。
最初の音が鳴った瞬間、
ブースの空気が、わずかに変わる。
音量でも、派手さでもない。
輪郭の位置が、違った。
「あ……」
ハヤテが、思わず声を漏らす。
それきり、何も言わない。
コウタは目を伏せたまま聴いている。
歌詞を追っているというより、
間を確かめるような顔だった。
ブレスの位置。
余白の長さ。
音が、急いでいない。
サビ。
静かに 静かに
降り積もる リトルスノー
ヒナタは、無意識に息を止める。
昨日までとは、違う。
歌が、前にいる。
でも、独りじゃない。
守られている。
問題の一行。
この白さを
君が ほどいてくれたら
ハヤテが、
スティックを持っていない指で、
膝を軽く叩く。
一拍。
ほんの、間。
「……うん」
それだけ言って、
ハヤテは小さくうなずいた。
再生が終わるまで、
コウタは口を開かない。
最後の余韻が消えてから、
ようやく言う。
「触られてるけど、
壊されてないな」
ヒナタは、ゆっくり息を吐く。
「……どう?」
コウタはすぐには答えない。
少しだけ考えてから、言葉を選ぶ。
「やりやすい、じゃない」
間を置いて、続ける。
「やる意味が、
はっきりした」
ハヤテが立ち上がる。
椅子が、わずかに鳴る。
「じゃ、
合わせよ」
準備も、相談もない。
三人が、それぞれの位置につく。
自然に。
何度も、そうしてきたみたいに。
カウント。
ワン。
ツー。
鳴らす。
ミックスされた音は、
まだ完成じゃない。
でも、
ヒナタの声が、
ちゃんと三人の真ん中に立つ。
ハヤテは、
叩かない勇気を選ぶ。
コウタは、
低音で、進む道だけを作る。
音が終わる。
誰も、拍手はしない。
確認も、称賛もない。
ハヤテが、にっと笑う。
「これさ」
少しだけ間を置いて、
「もう、
俺たちの曲だな」
コウタが、短くうなずく。
ヒナタは、何も言わない。
胸の奥にあった重さが、
音に変わって、
ゆっくり立ち上がっていくのを感じていた。




