表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Snow flakes   作者: 山吹 ことり
リトルスノー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/93

返事は、音で

 翌日の夕方。


 スタジオの前で、ヒナタは立ち止まっていた。


 手の中のスマホを、何度か握り直してから、

 扉を開ける。


 小雪は、いつも通りの顔で迎えた。


 特別なことは、

 何もなかったように。


「できたよ」


 それだけ言って、

 USBを差し出す。


 ファイル名は、ただ一行。


 Little Snow_mix_01


 ヒナタは受け取り、

 少し迷ってから聞いた。


「……どこ、直した?」


 小雪は肩をすくめる。


「直してないよ。

 整えただけ」


 それ以上は、説明しなかった。


 良いとも、

 悪いとも言わない。


 ヒナタは、その場でイヤホンをつける。


 再生ボタンを押した瞬間、

 自分の声が、昨日よりも

 近くにあることに気づく。


 サビが流れる。


 あの一行が来る。


 この白さを

 君が ほどいてくれたら


 ヒナタは、

 思わず視線を上げる。


 小雪は、モニターの方を見たまま言う。


「そこ、消さなかったから」


 理由は、言わない。


「あと」


 少しだけ間を置いて、

 続ける。


「最後の余韻、長くしてる。

 溶けきらない感じにした」


 それだけだった。


 評価でも、

 感想でもない。


 けれど確かに――

 受け取っている。


 サビが終わる。


 余韻が、

 まだ耳の奥に残っている。


 ヒナタは、

 すぐにイヤホンを外さなかった。


 再生は、

 もう止まっている。


 指先でコードをつまみ、

 ゆっくりと片耳だけ外す。


 スタジオの空気が、

 戻ってくる。


 パソコンのファンの音。

 小雪が椅子を動かす気配。

 遠くで、誰かがドアを閉める音。


 もう片方のイヤホンを外したとき、

 胸の奥にあったものが、

 ようやく落ち着いた。


 ヒナタは、USBを握り直す。


 言葉にすれば、

 軽くなる気がした。


 だから、言わなかった。


「……ありがとう」


 声は低く、

 短い。


 小雪は一瞬だけこちらを見て、

 すぐに視線を戻す。


「仕事だから」


 その言葉は、

 線を引くためじゃない。


 壊さないための、

 距離だった。


 ヒナタは、

 扉を出る前に振り返る。


「これさ」


「うん」


「バンドの一曲目にしたい」


 小雪は、

 少しだけ驚いた顔をしてから、

 ゆっくりとうなずく。


「いいと思う」


 それ以上は、

 何も言わなかった。


 あの音は、


 返事だった。


 ヒナタは、

 スタジオを出る。


 ドアが閉まる音が、

 思ったより小さく響く。


 廊下の照明は、

 昼と夜の境目みたいな色をしていた。


 ブースの方から、

 音が漏れている。


 ベースの低音。

 ドラムのハイハット。


 ヒナタは、

 扉の前で立ち止まり、

 ノブに手をかける。


 中に入ると、

 コウタがベースを抱えたまま振り向いた。


「どうだった?」


 ヒナタは、

 イヤホンのケースを軽く叩く。


「……できてた」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ