雪の欠片
いくつかの放課後が過ぎた。
話題にすることもなく、
誰ともなく音楽室に集まり、
当たり前のように三人で音を出す日々が続いている。
放課後、音楽室を出たあと、
三人は駅前の小さな公園を通った。
夜の照明に照らされたベンチは、
昼間より少しだけ静かに見える。
「寒くなってきたな」
ハヤテが首をすくめる。
「空気が変わってきた気がする」
コウタの声は、いつも通り落ち着いていた。
ヒナタが口を開きかけた、そのときだった。
「……ヒナタ」
聞き覚えのある声に、ヒナタが足を止め、振り返る。
「小雪」
ベンチのそばで、小雪がこちらを見ていた。
マフラーを首に巻き、
手には小さなノートを抱えている。
「久しぶりだね。……帰り?」
「え、ああ……ちょっと、音出してた」
曖昧にそう答えると、小雪はすぐに気づいたように笑った。
「バンドでしょ」
「なんで分かるんだよ」
「その格好で、三人揃ってたら」
ハヤテが面白そうに口を挟む。
「あの、幼馴染?」
「うん」
ヒナタが少し照れたように言う。
コウタが小雪を見て、小さく、目を細める。
視線に気づき、小雪は軽く会釈した。
「こんばんは」
コウタは一瞬だけ息を詰めた。
無意識に見ていたことを、見抜かれた気がした。
慌てて視線を外し、何もなかったふりをする。
その微妙な間を感じ取ったのか、
ハヤテが、少しだけ明るい声を出す。
「寒くない?
この辺、夜になると一気に冷えるんだよな」
小雪は少し驚いたように目を瞬かせてから、
小さく笑う。
「大丈夫」
それだけで、
空気がほんの少しやわらいだ。
コウタは、そのやり取りを黙って見ていた。
幼馴染という関係が、
自分にはよく分からない。
けれど、
おいそれと他人が入り込めない時間が、
確かにそこにあることだけは伝わってきた。
「名前、決まった?」
何気ない一言だった。
三人は一瞬、顔を見合わせる。
「いや、まだ」
「そっか」
小雪は少しだけ考えるように、視線を上げる。
「でも、音はもう始まってるんだよね」
その言葉に、ヒナタは返事ができなかった。
「名前ってさ」
小雪は続ける。
「後からついてくるものだと思う」
「先に“どう鳴りたいか”があって、それを呼ぶ言葉ができる」
コウタが、静かに頷いた。
「それ、分かる気がする」
小雪はノートを胸に抱え直す。
そのとき、
空気が、ふっと軽くなった。
「あ……」
誰ともなく、言葉が漏れた。
小雪が空を見上げる。
「雪、だね」
その視線を追い、三人も空を見上げる。
夜の空に、白い吐息がゆっくりと溶けていった。
しばらくして、ハヤテが肩をすくめる。
「……フレークス って、どうだ」
ヒナタの胸が、少しだけざわついた。




