今は、ヒナタのままで
スタジオの空気が、少しだけ重かった。
「……この曲さ」
コウタが、モニターを見たまま言う。
「外に出すなら、
もう一段、言葉を足したほうがいいと思う」
ヒナタは、ギターを持ったまま動かない。
「足す、って?」
「聴く側のために、だよ。
今のままだと、意味が掴めない人もいる」
それは、正論だった。
ハヤテは、スティックを指先で回しながら、
二人を見比べる。
「俺は……
このままでもいいと思うけどな」
コウタが、顔を上げる。
「ハヤテは、叩く側だからそう言える」
「逆だよ」
ハヤテは、間を置かずに返した。
「叩く側だから、
これ以上触られたら壊れるの、わかる」
一瞬、沈黙が落ちる。
ヒナタは、ようやく口を開いた。
「……説明したくない」
小さな声だった。
「この曲、
説明し始めたら、違うものになる」
コウタは、しばらく何も言わなかった。
それから、静かに続ける。
「じゃあさ」
「……これ、
誰に渡すつもりなんだ?」
その問いは、
音よりも、ずっと鋭かった。
ヒナタは答えない。
答えられない。
ハヤテが、椅子から立ち上がる。
「二人ともさ」
軽い口調なのに、目は真剣だった。
「この曲、
売るためのやつじゃないよな」
「でも、
守るだけの曲でもない」
二人が、ハヤテを見る。
「だったらさ」
スティックを、トン、と机に置く。
「今は、
ヒナタのままでやろ」
「売るとか、伝えるとか、
その話は、
この曲が外に出てからでいい」
コウタは、ゆっくり息を吐いた。
「……ずるいな、それ」
「知ってる」
ハヤテは、少し笑う。
「でも、
バンドって、そういうとこある」
ヒナタは、
初めて二人を、正面から見た。
「……ごめん」
コウタは、首を振る。
「謝るな」
「代わりに、
次の曲は、俺に任せろ」
その一言で、
張りつめていた空気が、ほどける。
ヒナタは、
小さく、うなずいた。
「……ありがとう」
ハヤテが、にっと笑う。
「はい、成立」
そう言って、
何事もなかったように、カウントを取る。
ワン。
ツー。
音が、
再び、動き出す。




