Little Snow
雪は、降っているとも言えないほど細かった。
気づけば白くなっている、そんな夜だった。
ヒナタはスタジオの隅に座り、
ギターを膝に置いたまま動かなかった。
指はコードの上で止まり、
代わりに、天井を見上げている。
何度も、言葉にしようとしてやめた。
誰かに話すほどの覚悟はない。
歌にするには、気持ちがまだ曖昧だった。
それでも、
音だけは浮かんでくる。
昔から一緒にいた。
いつも隣にいた。
だからこそ、
好きだという言葉だけが、
喉に引っかかって出てこない。
コウタなら、きっと上手く書くだろう。
言葉にして、整えて、
歌として成立させてしまう。
でも、これは頼めなかった。
これは、
自分で抱えたままでいないと、
どうしても音にならない気がした。
ヒナタは、録音ボタンを押す。
うまく歌えなかった。
ブレスは早く、声が揺れる。
歌詞は途中で途切れ、
同じフレーズを何度も繰り返す。
それでも、止めなかった。
夜が深くなるほど、
外の雪が静かになるほど、
その歌は、少しずつ形を持ち始めた。
告白じゃない。
でも、嘘でもない。
名前を呼ばない代わりに、
景色だけを置いていく。
駅裏の坂。
夜更けの窓。
吐く息の白さ。
二人しか知らない風景を、
音の中に閉じ込める。
朝方、
最後のコードを鳴らし、ヒナタは手を止めた。
再生はしなかった。
完成とも思えない。
それでも、
これ以上は触れないと決めた。
USBに書き出す。
ファイル名を入力するところで、少しだけ迷う。
仮タイトル。
Little Snow
それ以外、思いつかなかった。
ヒナタは立ち上がり、窓の外を見る。
雪は、まだ降っている。
これを、どうするか。
誰に聴かせるか。
答えは、最初から決まっていた。
けれど、
今すぐ渡すには、まだ少しだけ足りない。
ヒナタは、行き先も決めずに早朝の街を歩く。
白い雪が、肩を白く染め始める。
立ち止まらない。
立ち止まってしまえば、
言えなかった気持ちが、追いついてくる気がしたから。




