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幕間|宛名のない行
机の上には、ノートが開いたままになっている。
白紙じゃない。
でも、埋まってもいない。
ヒナタはペンを持ったまま、
何度目かわからないため息をついた。
「……違う」
小さく呟き、
書いた一行に線を引く。
好き
会いたい
そばにいたい
どれも、本当だ。
でも、どれも違う。
言葉にした瞬間、
軽くなってしまう気がした。
小雪に向けた気持ちは、
そんな形じゃない。
ペンを置き、
ギターを手に取る。
コードを鳴らすと、
言葉より先に、景色が浮かぶ。
駅裏の坂。
夜更けの窓。
吐く息の白さ。
「あ……」
そうか、と息を吐く。
言えないなら、
言えないままでいい。
呼ばないなら、
名前を書かなければいい。
ヒナタは、
ノートの余白に、そっと書く。
この白さを
君が ほどいてくれたら
書き終えたあと、
しばらく、その行を見つめていた。
これが正しいかどうかは、
わからない。
でも、
これ以上削ったら、
何も残らない気がした。




