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Snow flakes   作者: 山吹 ことり
リトルスノー編

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49/93

幕間|まだ

 その音を聴いた瞬間、小雪は足を止めた。


 ライブハウスの入口から、低く、静かな音が漏れてくる。


「……あ」


 名前を確かめなくても分かる。

 声を聴かなくても、分かってしまう。


 ヒナタだ。


 社会人になってからも、音楽を続けているらしい。

 誰かが、何気なく教えてくれただけの話。


 わざわざ調べたことはない。

 追いかけたこともない。


 ただ、どこかで続いているなら、それでいいと思っていた。


 小雪は壁にもたれ、目を閉じる。


 音は、昔よりずっと整っている。

 削ぎ落とされて、

 ちゃんと前に進んでいる音だ。


「……大きくなったな」


 心の中で、そう思う。


 けれど。


 次のフレーズで、胸の奥が少しだけ締めつけられた。


 音の奥に、あの頃の気配が残っている。

 小さくて、溶けそうで、

 それでも消えなかったもの。


「それ、消えないね」


 昔、自分がそう言ったことを思い出す。


 深い意味はなかった。

 ただ、そう見えたから言っただけ。


 それなのに。


 その言葉が、まだここにある。


 小雪はスマートフォンを取り出し、すぐに画面を閉じる。

 連絡先は、消していない。


 でも、今じゃない。


 音が止み、拍手が起きる。


 小雪は振り返らずに歩き出す。

 声をかけることも、すれ違うこともない。


 それでいい。


 あの音が、

 ちゃんと名前を持って鳴るようになったら。


 そのときは、

 もう逃げていないはずだから。


 小雪は夜の街に溶けていく。


 消えなかったものを、

 まだ胸の奥にしまったまま。

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