表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Snow flakes   作者: 山吹 ことり
リトルスノー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/97

幕間|声が届く距離

 スタジオを出ると、雨が降り始めていた。

 細くて、音を吸う雨。


 ヒナタは傘を持たずに歩き、

 スマートフォンをポケットに押し込む。


 角を曲がったところで、

 ふと、立ち止まった。


 聞き覚えのある声。


 笑い声ではない。

 呼ぶでも、騒ぐでもない。

 ただ、誰かに話しかける声。


「……」


 心臓が、一拍だけ遅れる。


 振り向けば、

 そこにいるはずだと、思ってしまった。

 

 いない。


 濡れたアスファルトに、

 街灯の光が滲むだけだ。


「……錯覚か」


 そう言いかけて、

 言葉を飲み込む。


 もし、今、

 本当に小雪がそこにいたら。


 自分は、

 声をかけられただろうか。


 名前を呼べただろうか。


 答えは、すぐに出た。


 ――無理だ。


 今の自分は、

 音でなら守れる。

 距離も、間も、空気も。


 でも、

 言葉では守れない。


 特に、

 あの言葉だけは。


 家に帰り、

 濡れたシャツを脱いで、

 机に向かう。


 ノートを開く。


 白いページ。

 久しぶりに、ペンを持つ。


 書こうとして、

 止まる。


 書けないのは、

 技術の問題じゃない。


 書いた瞬間、

 小雪の輪郭が、

 はっきりしてしまうからだ。


「……まだ、だ」


 そう呟いて、

 ペンを置く。


 スマートフォンが、震えた。


 通知は、

 知らない番号からのメッセージ。


 制作関係の、

 音の相談だった。


 ヒナタは、

 画面を見つめてから、

 短く返信する。


「見ます」


 音なら、見られる。

 音なら、応えられる。


 でも、

 今日すれ違ったかもしれない声には、

 まだ、触れられない。


 それでも。


 胸の奥で、

 あの感覚が、

 確かに、騒いでいた。


 小さくて、

 溶けそうで、

 でも、消えなかったもの。


 今は、

 声が届く距離まで来ただけ。


 踏み出すのは、

 もう少し先だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ