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幕間|覚えといたらいい
冬の公園は、いつも静かだった。
遊具の色はくすんで見えて、
足音だけがやけに大きく響く。
ヒナタは、手袋を外してブランコの鎖を握っていた。
冷たいけれど、離さなかった。
「寒くないの?」
小雪が聞く。
「平気」
そう言いながら、少しだけ肩をすくめる。
小雪はヒナタの前に立って、
ブランコを軽く押した。
強くは押さない。
揺れすぎないくらい。
「音、好き?」
唐突に、小雪が言う。
「……好きだと思う」
「思う、なんだ」
「うん。まだよく分からない」
ブランコが、ぎい、と鳴る。
その音に、ヒナタは耳を澄ませた。
「この音は?」
「これは……嫌いじゃない」
「じゃあ、覚えといたらいい」
小雪は当たり前みたいに言う。
ヒナタは何も返さなかったけれど、
ブランコの音を、もう一度聞いた。
最近ふと、
この日のことを思い出すことがある。
音を好きになった瞬間じゃない。
でも、音を気にするようになった最初の日。




