幕間|いいかんじのバー
「そういえばさ」
機材を片づけながら、ハヤテが言った。
「最近、いいバー見つけたんだよ」
「へえ」
ヒナタはギターをケースにしまいながら返す。
視線はもう時計のほうに向いている。
今日は早く帰るつもりらしい。
「どんな店?」
「カクテル作る子がいてさ。
なんか、魔法みたいなんだよ」
「魔法?」
コウタが顔を上げる。
「手元よく見えないのに、
気づいたら一杯できてる」
「それ、面白そうだな」
コウタは自然に身を乗り出した。
「なんか居心地よくて。
最近、練習終わりに寄っててさ」
ハヤテはそう言って、少し笑う。
「奥に小さいステージもあって。
ドラムセット置いてあるんだ」
「叩けるのか?」
「たまにね。
お客さん少ない日とか」
「いいな。行ってみたい」
「だろ」
ハヤテの声が、少しだけ弾む。
「音、ちゃんと聴いてくれる店なんだ」
ヒナタは、その会話を背中で聞きながら、
ケースのジッパーを閉める。
「じゃ、お疲れ」
ヒナタは振り向かず、
その場を先に離れた。
「ああ、オツカレ」
一瞬だけ、
ハヤテの表情が曇り、その背中を目で追った。
その気配を、コウタはそっと受け取った。
「……楽しみだな」
何気ない一言だったが、
ハヤテの肩の力が、わずかに抜ける。
「だろ?」
少し照れたように笑って、
でも、隠しきれずに続ける。
「たぶん、気に入ると思う」
その声は、
さっきより少しだけ弾んでいた。




