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幕間|休憩
スタジオの近くに、新しい自販機が増えていた。
「なあ、これ見た?」
ハヤテが指差す。
「プロテイン入りコーヒーだってさ」
「誰が飲むんだよ」
コウタが即座に返す。
「社会人バンドマン」
ハヤテが真顔で言い、二人が笑う。
練習後、三人は並んで缶を眺める。
結局、誰もそれを選ばなかった。
「いつものでいいか」
「だな」
ヒナタはブラックを押す。
苦い音が、缶の中で鳴った。
「最近さ」
ハヤテが言う。
「平日ライブの後って、曜日分かんなくならね?」
「なる」
コウタが即答する。
「次の日、普通に仕事なのが一番やばい」
「それな」
三人で笑う。
特別な話はしない。
EPのことも、曲のことも出てこない。
それでも、
スタジオに入る前のこの時間だけは、
昔とあまり変わらなかった。
「じゃ、行くか」
ハヤテが言う。
ヒナタはギターケースを持ち直す。
音を出す前の、
いちばん軽い瞬間。




