幕間|予定外の甘さ
昼休みの終わりかけ、
ヒナタは妙に姿勢を正して現れた。
「なあ。
バンド名、考えたんだけど」
声に、わずかな気負いが混じっている。
「早くない?」
パンを半分くわえたまま、ハヤテが目を上げた。
面白がっているが、茶化しすぎない距離感だ。
「どんなの?」
本を閉じたコウタが、静かに続きを促す。
ヒナタは一拍置いてから、言った。
「ノースマン」
一瞬、時間が止まる。
ハヤテとコウタは、反射的に顔を見合わせた。
「……それ、
札幌限定のやつ?」
「千秋庵が浮かぶな」
淡々としたコウタの一言に、
ハヤテが小さく吹き出す。
「お前、それ本気で言ってる?」
「本気だけど」
ヒナタは少しだけ眉を上げた。
「雪の中で育った男、みたいな感じでさ。
悪くなくない?」
「発想は嫌いじゃないけど」
ハヤテはパンを飲み込んでから言う。
「たぶん、
思ってる以上に甘い匂いがする」
「……あ」
ヒナタが間違いに気づく。
「じゃあ、スノーマン?」
今度こそ、二人は同時にため息をついた。
「それは流石に」
「世界的に敵が多すぎる」
「え?
そんなに?」
ヒナタは本気で不思議そうだった。
ハヤテは肩をすくめ、
コウタはまた本を開きながら言う。
「名前ってさ、
呼ばれ続けるものだから」
「重たいな」
でも、誰も否定はしなかった。
笑いが落ち着いたあと、
ヒナタは小さく呟く。
「じゃあさ。
もうちょっと、考える」
その言い方が、
妙に真剣で。
二人はまた顔を見合わせて、
今度は何も言わずに笑った。




