形にする話
スタジオの机の上に、資料が広げられていた。
「EP、作らない?」
切り出したのは、ハヤテだった。
「今の流れなら、ちょうどいいと思う」
コウタは資料に目を落とし、静かに頷く。
「ライブも増えてるし」
「名前も、残せる」
ヒナタはすぐには反応しなかった。
ギターの弦を指で弾きながら、資料を眺める。
録音。
ミックス。
配信。
インディーズとして、一歩踏み込む話だ。
「反対じゃない」
ヒナタは、ようやく口を開く。
「ただ」
二人が顔を上げた。
「今の曲で、
本当に残したいかどうか」
ハヤテは一瞬、黙る。
「悪い曲じゃない」
「むしろ、安定してる」
「分かってる」
ヒナタは頷く。
「でも、今の俺、
歌ってるけど、
作ってない気がする」
短い沈黙。
「それ、前から?」
コウタが言う。
「……最近、はっきりした」
ハヤテが苦笑する。
「来たな、この話」
冗談めいた声だったが、目は逸らさなかった。
「無理に書かなくていい」
コウタが続ける。
「でも、触れないまま形にすると、
後で戻れなくなる」
「EPは、残るからな」
ハヤテも言う。
「今の俺たちが」
ヒナタは、深く息を吸った。
「……少し、待ってほしい」
二人を見る。
「時間はかけない」
「でも、一回だけ」
「ちゃんと向き合いたい」
コウタはすぐに頷く。
「待つ」
「言葉でも、
言葉じゃなくても」
「期限は決めとけよ」
ハヤテが言う。
「俺ら、社会人だから」
ヒナタは、少しだけ笑った。
夜、ギターを手に取る。
音は出る。メロディも悪くない。
でも、ノートを開くと、手が止まる。
浮かぶのは、ずっと同じ感覚。
小さくて、溶けそうで、
それでも消えなかったもの。
「……逃げてたわけじゃない」
確認するように、
小さく息を吐いた。




