手応えの正体
ライブハウスの外に出ると、夜風が思ったより冷たかった。
平日の終電が近い時間。それでも、客席はそこそこ埋まっていた。
「今日、よかったな」
機材を片づけながら、ハヤテが言う。
「反応、ちゃんとあった」
「うん」
コウタも頷く。
「知らない人が、最後まで残ってた」
それは、確かな前進だった。
最近のスノーフレークスは、ブッキングでも名前を覚えられ始めている。
対バンと挨拶を交わし、次の話が自然に出るようになった。
「音、安定してたよね」
打ち上げの席で、誰かが言った。
「社会人でこれは、すごいと思う」
褒め言葉だった。
悪くない。むしろ、ありがたい。
ヒナタは笑って礼を言い、グラスを口に運ぶ。
その瞬間、胸の奥で、わずかな違和感が鳴った。
安定している。
確かにそうだ。
でも、それは掴みにいった音ではなく、整えた結果の音だった。
帰り道、三人で駅へ向かう。
「次、もうちょい大きい箱、行けそうだな」
ハヤテが言う。
「誘い、来てるし」
「うん」
コウタも冷静に受け止めている。
ヒナタは、少し遅れて歩きながら考えていた。
評価はある。流れも悪くない。
それなのに。
家に帰り、ギターをケースから出す。
アンプには繋がず、生音でコードを鳴らす。
指は自然に動き、メロディも悪くない。
でも、そこから先へ行こうとすると、足が止まる。
「……これで、いいのか」
声に出してみても、答えは出なかった。
コウタの言葉は的確で、ハヤテのリズムも迷いがない。
自分は、その真ん中に声を置いているだけ。
それが間違いだとは思わない。
ただ、それで全部だとも思えなかった。
翌日の仕事中、ふと、昔のフレーズが頭をよぎる。
小さくて、
溶けそうで、
それでも消えなかったもの。
「……消えてないな」
心の中で、そう呟く。
スノーフレークスは、確実に前に進んでいる。
それでも、ヒナタの中の何かは、置き去りのままだった。




