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幕間|反響
川沿いの歩道は、夜になると人が減る。
街灯の下、ヒナタは立ち止まってギターケースを地面に置いた。
風が、水面をなぞる音。
遠くで、電車が通り過ぎる。
ケースを開ける。
チューニングは、しない。
今日は、確かめるだけだった。
弦を軽く弾く。
音は、小さい。
でも、消えない。
橋の下に反響して、
自分のほうへ戻ってくる。
ヒナタは、もう一度だけ鳴らす。
同じフレーズ。
少しだけ、力を抜く。
――ああ。
これだ、と思う。
名前も、言葉も、まだいらない。
続いているかどうか。
それだけで、今日はよかった。
ケースを閉じる。
肩にかけて、歩き出す。
音は、置いてきた。
でも、消してはいない。




