言葉から遠い場所
気づけば、季節が一つ巡っていた。
同じスタジオ。
同じ三人。
それでも、空気は少しずつ変わっている。
スノーフレークスは、定期的にライブをしていた。
名前は覚えられ、
音も、前より安定している。
「次、どうする?」
リハーサル終わり、ハヤテが言う。
「いつも通りで」
ヒナタはギターを拭きながら答える。
セットリストには、
名前のない曲が並んでいた。
どれも、よく鳴る。
よく届く。
それなのに。
ヒナタは、ノートを開かなくなっていた。
歌詞を書くためのページは、
ずっと白いままだ。
「まだ、さ」
帰り道、コウタがぽつりと言う。
「ヒナタ、言葉から離れてるよね」
責める口調ではない。
確認するだけの声だった。
「うん」
ヒナタは否定しない。
「今は、触らないほうがいい気がする」
「逃げてるとは思わない」
コウタは続ける。
「でも、置いてきてもいない」
その言葉に、ヒナタは少しだけ足を止めた。
「……どっちだと思う?」
「分からない」
正直な答えだった。
ハヤテが、会話を切り替える。
「まあさ」
「音は嘘ついてないし」
「それでいい時期もあるだろ」
ヒナタは、その言葉に救われる。
夜、自室でギターを鳴らす。
コードは自然に出てくる。
メロディも、悪くない。
でも、
言葉を探そうとすると、
手が止まる。
思い浮かぶのは、
ずっと前の、
名前を持たなかったあの感覚。
小さくて、
溶けそうで、
でも、消えなかったもの。
評価もある。
手応えもある。
それでも、
言葉は降りてこなかった。
「……まだ、だな」
ヒナタはそう呟いて、
ギターケースを閉じた。




