幕間|現場
ライブが終わったあと、
ステージ裏はいつもより慌ただしかった。
片付けの音。
話し声。
アンプの電源が落ちる低い音。
ヒナタはギターをケースにしまいながら、
無意識に周囲を探していた。
小雪。
卓の近く。
スタッフと並んで、メモを確認している。
「さっきの三曲目」
先輩らしきスタッフが、卓のほうを見たまま言う。
「サビ前、ベースちょっと出てたな」
小雪は手元のメモを見て、静かに頷く。
「後半のギター、
ディレイは少し浅めでもいいかもしれません」
名前は呼ばない。
声も、控えめだった。
一瞬だけ、ヒナタと目が合う。
小雪は小さく会釈して、すぐ視線を戻した。
「全体は、すごく良かったです」
それだけ添えて、先輩の後ろに下がる。
それで終わりだった。
昔みたいな、探るような視線もない。
音に耳を澄ます沈黙もない。
今の小雪は、完全に仕事の顔をしている。
嫌なわけじゃない。
冷たいとも違う。
ただ。
「……遠いな」
思わず、独り言がこぼれる。
近づけない距離ではない。
でも、踏み込む隙がない。
ハヤテが横を通り過ぎながら、
ちらっとこちらを見る。
何も言わない。
その沈黙が、余計に効いた。
小雪はすでに別のスタッフと話していた。
次の現場の話。
次の音の話。
ヒナタはケースを持ち上げて、深く息を吐く。
会場の雑音は遠のき、
ヒナタの耳には、もう届いていなかった。




