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Snow flakes   作者: 山吹 ことり
大学編

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31/92

名前のないまま鳴る

 ライブハウスの照明は、少し強すぎた。

 ステージに立つと、床の感触がはっきり分かる。


「次、スノーフレークスです」


 名前を呼ばれるのには、もう慣れ始めていた。

 それでも、胸の奥が少しだけ引き締まる。


 この曲は、まだ名前がない。

 セットリストには、仮の記号だけが書いてある。


 ハヤテがカウントを取る。

 短く、迷いのない合図。


 音が鳴る。


 最初のフレーズで、ヒナタは余計な力を抜いた。

 前に出すより、置く。

 押すより、残す。


 コウタの言葉は、相変わらず余白が多い。

 全部を言わない。

 でも、逃げてもいない。


 客席は静かだった。

 盛り上がっているわけでも、冷えているわけでもない。


 ただ、聴いている。


 それが、少しだけ怖かった。


 曲が終わる。

 拍手は、遅れて起きた。


「……良かった」


 終演後、知らない誰かが言った。


「雰囲気、好きです」


 悪くない反応だ。

 むしろ、ちゃんと届いている。


 なのに。


 楽屋に戻ったヒナタは、椅子に座ったまま動かなかった。


「どうした?」


 ハヤテが聞く。


「いや」


 ヒナタは首を振る。


「悪くなかった」


 それは本音だった。


 コウタが、静かに言う。


「でも、満足してない顔だ」


 図星だった。


「……言葉は」


 ヒナタは、少し間を置いてから続ける。


「ちゃんとしてるのに、

 なんか、落ち着かない」


 ハヤテは、

 少し考えてから口を開いた。


「今は、

 それでいいんじゃねえの」


「うん」


 コウタも頷く。


「今は、

 言葉を追いかけないほうがいい時期かもしれない」


 ヒナタは、その言葉に救われる。


「……しばらくさ」


 二人を見る。


「歌詞、書かなくていい?」


 沈黙はなかった。


「いいよ」


 コウタは即答した。


「そのほうが、

 音が正直になる気がする」


「じゃ、

 そういうことで」


 ハヤテが、軽く言う。


 ヒナタは、

 静かに頷いた。


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