名前で呼ばれる音
ライブハウスの入口には、
手書きのタイムテーブルが貼られていた。
その中に、見慣れないはずの名前がある。
”Snow flakes”
ヒナタは、無意識にその文字を目でなぞった。
「……あるな」
「あるな」
ハヤテも同じところを見て、笑う。
「当たり前だろ」
コウタは落ち着いた声で言ったが、
視線はやはりそこにあった。
控室は、高校の頃よりずっと狭い。
知らないバンドばかりで、
空気は少し張りつめている。
「次、スノーフレークスさん、準備お願いします」
呼ばれた瞬間、三人は同時に顔を上げた。
名前で呼ばれる。
それだけのことが、
こんなにもはっきり胸に来るとは思わなかった。
ステージに上がる。
客席は満員ではない。
それでも、知らない顔が確実にこちらを見ている。
「行くぞ」
ハヤテの短い声。
カウント。
音が鳴る。
最初の一音で、ヒナタは気づく。
今日の音は、高校のときとも、
一人でやっていた頃とも違う。
三人とも、前に出すぎない。
でも、引きもしない。
コウタのベースが、静かに全体を支える。
ハヤテのドラムは、余計な主張をしない代わりに、
流れを外さない。
ヒナタは、声を張らなかった。
力を抜いて、言葉を置く。
最後の音が消える。
一瞬の間。
それから、拍手が起こった。
「……いいバンド名だね」
ステージを降りたとき、知らない誰かが言った。
ヒナタは、思わず足を止める。
「名前、覚えやすい」
その一言で、胸の奥が静かに熱くなった。
控室に戻る。
誰も、
すぐには口を開かなかった。
「さっきのさ」
ハヤテが言う。
「高校のときより、
ちゃんと“今の音”だった気がする」
「うん」
ヒナタは頷く。
外に出ると、
夜風が冷たい。
「次、どうする?」
ハヤテが聞く。
ヒナタはすぐに答えなかった。
少しだけ考えてから、言う。
「……次の音、作ろう」
「新しいやつ?」
「うん」
コウタが、
少しだけ笑った。




