名前を書くということ
スマートフォンの画面には、
エントリーフォームが表示されていた。
出演者名、編成、連絡先。
ヒナタは、
その画面をしばらく見つめたまま動かない。
「まだ?」
向かいの椅子で、ハヤテがコーヒーを啜る。
「……ちょっと待って」
名前を書く、それだけのことなのに、指が止まる。
「別に、今すぐ決めなくてもよくね?」
ハヤテは軽く言う。
「ソロ名でもいいし、
なんなら仮で――」
「だめ」
コウタが、はっきり言った。
二人が顔を上げる。
「仮で出すくらいなら、出ないほうがいい」
その言葉に、ヒナタは小さく息を吐いた。
「だよな」
画面に戻る。
出演者名の欄。
空白。
コウタは黙って、ヒナタの手元を見ていた。
「……三人で決めたんだろ」
「一人で背負わないって」
ヒナタは、ゆっくり指を動かす。
S
n
o
w
一文字ずつ、確かめるように。
f
l
a
k
e
s
入力欄に、名前が収まる。
スノーフレークス。
「……よし」
送信ボタンを押す。
特別な音はしなかった。
画面が切り替わり、受付完了の文字が出るだけ。
「なんだ、あっさりだな」
ハヤテが言う。
「だから、怖いんだよ」
ヒナタは笑った。
その夜、三人はスタジオに入った。
名前を出したあと、
初めての音合わせ。
「やる?」
ハヤテがスティックを構える。
「うん」
ヒナタがギターを持つ。
コウタは、深く息を吸ってからベースを構えた。
音が鳴る。
前よりも、
少し慎重で、
前よりも、
少し優しい。
音が、
自然に続いていく。
「……悪くない」
コウタが、ぽつりと言う。
「だな」
ヒナタは頷く。
久々の緊張感が、
心地よく音に乗って響いていった。




