幕間|視線の先
昼休みのキャンパスは、相変わらず騒がしい。
食堂の前には人が溢れ、
ベンチはどこも埋まっていた。
ハヤテは自販機で缶コーヒーを買い、
建物の影に腰を下ろす。
スマホを開くでもなく、ただ人の流れを眺めていた。
「ハヤテ」
名前を呼ばれて顔を上げると、
同じ学部の友達が二人、並んで立っていた。
「久しぶり」
「相変わらず忙しそうだな」
「まあね」
天気の話。
講義の話。
どうでもいいやり取りが、少し続く。
間があって、
片方が思い出したように言った。
「そういえばさ」
もう一人が、軽い調子で続ける。
「またバンド始めたって聞いた」
ハヤテは一瞬、言葉を探した。
始めた、というほどでもない。
でも、違うとも言えなかった。
「噂、早いな」
それだけ返すと、
二人は顔を見合わせて笑う。
「へえ」
「なんか、ハヤテっぽい」
それ以上、何も聞かれなかった。
二人は手を振って、人の流れに戻っていく。
ハヤテは缶を軽く振ってから、プルタブを開けた。
金属の音が、短く響く。
また、という言い方が、
少しだけ引っかかった。
やめたつもりはなかった。
始めた、という実感もなかった。
それでも、
誰かの中では、もう続いているらしい。
ハヤテは立ち上がる。
午後の講義に向かって歩きながら、
頭の中でリズムを刻む。
足だけが、
先に前に出る。
「なんか、
ごきげんだな」
後ろから声をかけられて、
ハヤテは振り返らずに、
片手を軽く上げた。
ごきげん、
ということにしておく。
そのほうが、
余計な音を
聞かずに済む。




