別々の音のまま
ステージ袖は、思っていたより狭かった。
高校のときに立った場所とは、
匂いも、音も、違う。
ヒナタは一人でギターを抱え、
深く息を吸う。
出演者一覧の紙には、
自分の名前だけが書かれていた。
学生向けの音楽イベント。
バンドでも、
ソロでも、
形は問われない。
今のヒナタには、
それしか選べなかった。
大学に入ってから、
ヒナタは一人で音楽を続けていた。
話はできる。
音も合わせられる。
けれど、
どこかで噛み合わない。
これじゃない。
届かない。
一人じゃ作れない。
でも、立ち止まることもできない。
低い音が欲しいと思うたび、
リズムが欲しいと思うたび、
それを口に出さずに、
曲を短くした。
足りない部分を、
削ることで成立させる。
それが、
今のやり方だった。
「次の方、準備お願いします」
スタッフの声に、
体が自然と動く。
ステージに立つと、
ライトが眩しい。
客席の表情は、
よく見えない。
それが、
少しだけ救いだった。
カウントは、
自分で取る。
ギターの音が鳴る。
ドラムはいない。
ベースもない。
それでも、
音楽は続いている。
歌いながら、
無意識に思ってしまう。
本当は、
ここに低い音が欲しい。
このリズム、
誰かが引っ張ってくれたら。
曲の後半。
突然、
横から音が重なった。
ドラム。
一瞬、
思考が止まる。
迷いのないリズム。
考えるより先に、
体が反応していた。
ハヤテ。
ただ、
当然の顔をして叩いている。
曲が終わる。
拍手が起こる。
ステージを降りた瞬間、
ヒナタは思わず言った。
「……なんでいるんだよ」
「近く通ったから」
ハヤテは、
相変わらずの調子で笑う。
「一人で出るって聞いてさ。
なんか、
放っておけなかった」
ヒナタは、
何も言えなかった。
「懐かしい音だったな」
ハヤテが、
ぽつりと言う。
「変わってないところと、
変わったところと」
「……どっち?」
「両方」
そのとき。
「やっぱり、
そうだった」
二人が振り向く。
少し離れた通路に、
コウタが立っていた。
本を抱えたまま、
静かにこちらを見ている。
「音が、
足りてなかった」
「だから、
来た」
連絡はない。
約束もない。
ただ、
音がそうさせただけだった。




