音楽室の鍵
音楽室の窓は、少しだけ開いていた。
春の匂いが、まだ冷たい空気に混じって入り込む。
卒業式の前日。
放課後の校舎は、驚くほど静かだった。
ヒナタは、ギターケースを床に置き、壁にもたれていた。
もう何度も見てきたはずの部屋なのに、今日は少し違って見える。
「最後だな」
ドラムセットの前で、ハヤテが言う。
「何が?」
「この三人で、ここに集まるの」
コウタは何も言わず、ベースのネックを軽く撫でていた。
それぞれの進路は、もう決まっている。
誰も、それを口にしないだけだった。
「少しだけ、音出すか」
ヒナタが言うと、二人は頷いた。
カウントはなかった。
曲名もない。
ただ、今まで何度も鳴らしてきた音。
完璧ではない。
それでも、無理に整えようともしなかった。
最後の音が消えたあと、
誰もすぐには動かなかった。
「……またやろうな」
ハヤテが、いつもの調子で言う。
「落ち着いたら」
「うん」
ヒナタは笑って答える。
コウタは少し遅れて、頷いた。
「やめるわけじゃないし」
その言葉に、全員が救われた気がした。
ヒナタは立ち上がり、窓を閉める。
コウタがアンプの電源を落とし、
ハヤテがスティックをケースにしまう。
最後に、ヒナタが鍵を回した。
カチリ、と小さな音。
それが、この場所で鳴った最後の音だった。




