幕間|熱
最初のライブが終わってから、気づけばステージの数は増えていた。
どの会場も、同じではない。
音が跳ね返る壁も、吸い込まれる天井も、客の呼吸も違う。
叩くたびに、音は姿を変えた。
突き抜ける夜もあれば、重く沈む夜もある。
うまく鳴ったはずの一打が、途中で崩れることもあった。
ハヤテは、必死に耳を開く。
自分の音。
メンバーの音。
スピーカー越しに返ってくる、歪んだ空気。
気持ちいい。
気持ち悪い。
その境目が、分からなくなる瞬間がある。
それでも、止めたくなかった。
ちゃんと届けたい。
返ってきた反応を、次の一音に繋げたい。
何回目かのライブ。
サビに入る直前、視線を上げた。
フロアの端。
ミキサー卓のすぐ後ろ。
小雪が立っていた。
手は出せない距離。
それでも、音から一瞬も逃さない目をしている。
真剣で、必死で、少しだけ悔しそうな顔。
一拍遅れて、目が合った。
強くはない。
けれど、確かだった。
次の瞬間、ハヤテは視線を逸らす。
小雪も、同時に前を向いた。
言葉はない。
合図もない。
けれど、胸の奥が一段、熱くなる。
よい音を届けたい。
この場に、全部を投げたい。
返ってくる音を、受け止めたい。
その気持ちが、向こうにもある。
だから、叩いた。
いつもより強く。
いつもより深く。
音は、割れそうになりながら、客席へ放たれる。
歓声が遅れて返ってくる。
ハヤテは、スティックを握りしめたまま、笑った。




