小さな手応え
教室の窓から見える空は、もうすっかり冬の色をしていた。
昼休みのざわめきの中で、ヒナタは机に頬杖をついている。
「今日さ」
ハヤテが声を落として言った。
「放課後、来るって」
「誰が?」
「クラスの連中。二、三人だけどな」
ヒナタの胸が、わずかに跳ねる。
「……聴かせるってこと?」
「そうなるな」
コウタが本を閉じる。
「断る理由もないし」
正論だった。
それでも、三人とも同じ不安を抱えているのが分かる。
放課後の音楽室は、いつもより狭く感じた。
壁際に立つ数人の視線が、思った以上に近い。
「ほんとにバンドやってたんだ」
「スノーフレークス、だっけ?」
名前を口にされるだけで、心臓が少し強く鳴る。
「じゃ、やります」
ハヤテが軽く言い、スティックを構える。
カウントは短かった。
音が鳴る。
いつもと同じ曲。
同じはずの音。
けれど、空気が違った。
ヒナタは、最初のフレーズで喉が詰まる。
視線が気になる。
声の置き場が分からなくなる。
「……っ」
一瞬、音が乱れた。
それでも、止まらなかった。
ハヤテのリズムが引き戻し、
コウタの低音が支える。
最後の音が消える。
一拍の沈黙。
「……すげえ」
誰かが言った。
「思ってたより、ちゃんとしてる」
「曲、暗いけどいいな」
言葉はばらばらで、完璧ではない。
それでも、確かに届いていた。
「名前、覚えとくわ」
その一言が、妙に胸に残る。
人が去ったあと、三人はしばらく黙っていた。
「怖かったな」
ヒナタが正直に言う。
「当たり前だろ」
ハヤテが笑う。
「でもさ」
コウタが静かに言った。
「知らない人に聴かせて、
それでも音が崩れなかった」
ヒナタは、ゆっくり息を吐いた。
「……名乗ってよかった」




