幕間|音を信じて
音楽室の隅で、コウタは譜面をめくっていた。
書いては消した跡が多い。
線が重なって、少し汚れている。
「それ、まだ直すの?」
小雪が横から覗く。
「ん。気になる」
「どこが?」
コウタは一拍置いてから答えた。
「言葉と音が、ちょっとズレてる」
小雪は譜面を見て、すぐに分かったふりはしなかった。
「……私は、嫌いじゃないけど」
「それ、よく言われる」
コウタは苦笑する。
悪くない、は、正解じゃない。
そう思っている。
小雪はしばらく黙って、机の上のペンを一本取った。
「ここ」
軽く指で示す。
「この一行、音より先に来てる」
コウタは目を落とす。
しばらくして、小さく息を吐いた。
「あー……」
「たぶん、音を信じていい」
小雪はそれだけ言って、手を引っ込める。
助言というほどのものじゃない。
でも、コウタには十分だった。
「ありがと」
「どういたしまして」
少しだけ空気が緩む。
外から、ハヤテのカウントが聞こえた。
コウタは譜面を畳み、立ち上がる。
「あとで、もう一回見て」
「いいよ」
約束みたいな言葉は、交わさない。
それでも、
音はちゃんと繋がっている。




