音を預ける前に
音楽室のドアが、少しきしむ音を立てた。
「入っていい?」
小雪の声に、ヒナタが振り向く。
「どうぞ」
そう言ったものの、少しだけ緊張していた。
三人以外が、この場所に入ってくるのは初めてだった。
小雪は壁際に立ち、静かにセッションを聴いていた。
手に持っているノートは、開かれていない。
一曲、終わる。
「……どう?」
ヒナタが聞くと、小雪はすぐには答えなかった。
「音、前より揃ってる」
はっきりした言い方だった。
「でも」
三人が身構える。
「まだ、歌が一番迷ってる」
ヒナタは言い返せなかった。
自分でも、同じことを思っていたからだ。
「歌詞?」
コウタが聞く。
「ううん」
小雪は首を振る。
「声の置き場」
その言葉に、ハヤテが目を丸くする。
「そこまで分かる?」
「ずっと聴いてたから」
小雪は当然のように言った。
「ヒナタの声、強いけど、
一番きれいなのは、力抜いたとき」
ヒナタは、何も言えなかった。
「ねえ」
小雪は少しだけ言いづらそうに続ける。
「もしよかったら」
三人を見る。
「仮でいいから、
今日の音、私に預けてくれない?」
「預ける?」
「録って、聴き直してみたい」
コウタが一拍置いて、頷いた。
「……お願いできる?」
小雪は、少しだけ笑った。
「じゃあ」
「スノーフレークスの、最初の記録だね」
その言葉に、ヒナタの胸が熱くなった。
息を整えるように、ゆっくりと顔を上げる。
ヒナタは、まっすぐに小雪を見た。




