衝突
スノーフレークスのスケジュール表は、
赤で埋まっていた。
リハ。
ライブ。
打ち合わせ。
締切。
その合間に、
ヒナタの外部案件が、
青でねじ込まれている。
「……これ、無理だろ」
コウタが言った。
珍しく、強い口調だった。
「削れるの、どこ?」
ヒナタは資料から目を離さない。
「削れない。全部、動いてる」
「スノフレも動いてる」
空気が、ぴんと張る。
ハヤテは二人の間に視線を落としたまま、
黙っていた。
「外の仕事、今月、入れすぎだ」
コウタが続ける。
「分かってる」
ヒナタは即答した。
「でも、今、断れない」
「なんで」
一拍。
「今、俺がやらないと、
この流れ、切れる」
コウタは言葉を探す。
「……それ、スノフレより大事って聞こえる」
ヒナタの手が、止まった。
「そういう言い方、するなよ」
「じゃあ、どういう言い方ならいい」
コウタの指先が、机をトンと叩いた。
「俺たち、今、どこに立ってる」
沈黙。
ハヤテが、ようやく口を開く。
「待って」
二人を見る。
「先方、スケジュール、
これ以上は動かせないって」
ヒナタが顔を上げる。
「……もう?」
「もう」
ハヤテの声は落ち着いているが、硬い。
「スノフレ側も、箱、押さえ直せない」
板が、ぎし、と鳴る。
「どっちも、落とせない」
ハヤテは、自分に言い聞かせるように言った。
「だから、どっちかを優先するしかない」
ヒナタは、しばらく黙ったあと、低く言った。
「……俺が、分身できたらいいのにな」
コウタが、苛立ちを抑えきれず言う。
「冗談にするな」
「冗談じゃない」
「じゃあ、スノフレは、誰が背負う」
沈黙。
ヒナタの肩が、わずかに動いた。
「俺が背負ってる」
ヒナタが、初めて声を荒げた。
「……ずっと」
ハヤテが、一歩前に出る。
「ヒナタ」
名前だけ。
それ以上、言えない。
コウタは、拳を握る。
「……一回、決めよう」
二人を見る。
「今月、何を優先するか」
ヒナタは、答えられなかった。
答えた瞬間、どちらかが、壊れる気がした。
沈黙の中で、
ハヤテだけが、現実を見ていた。
どちらを選んでも、誰かが傷つく。
それでも、決めなければ、全部、落ちる。
コウタは、
天井を見上げて深く息を吐く。
「ちょっと、
……頭冷やしてくる」
コウタが、スタジオを出る。
時計の針の音が、
やけに大きかった。




