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Snow flakes   作者: 山吹 ことり
高校編

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1/21

偶然

 

 放課後の音楽室は、思っていたよりも広かった。

 窓が多く、春の光が斜めに差し込んでいる。

 白い床に落ちた影が、時間と一緒にゆっくり動いていた。


 ヒナタは、そっとドアを開けた。

 ギターケースを肩から下ろし、壁際に立てかける。


 その時、奥の方で椅子が小さく鳴った。


「あ」


 声を出したのは、ベースを抱えたコウタだった。

 お互い、少しだけ気まずそうに会釈する。


「…どうぞ」


「うん」



 ヒナタが弦を軽く鳴らす。

 音は、思ったよりもよく響いた。

 天井に当たって、ゆっくり戻ってくる。


 その響きに重なるように、ドアがもう一度開く。


「空いてる?」


 ドラムスティックを一本だけ持ったハヤテが、顔を出した。

 楽器はない。けれど、慣れた足取りだった。


「どうぞ」


 ヒナタはコードをひとつ、適当に鳴らした。

 音を探しているというより、

 指の置き場を確かめているだけ。


 少し遅れて、コウタが低い音を重ねる。

 こちらも決まりはない。

 弦を押さえ、離し、また押す。


 ハヤテはスティックで机の縁を軽く叩いていた。

 一定ではない。

 気分で、間を空けたり、詰めたりする。


 ばらばらの音。

 誰も合わせようとしていない。

 視線も、合っていない。


 それなのに。


 一瞬だけ、

 コードとベースとリズムが、ぴたりと重なった。


 意図したわけではない。

 合図もない。


 三人とも、同時に手を止める。


「……今の」


 誰ともなく、視線が合う。

 確かめるような、静かな間。


 もう一度やろうとしても、同じにはならない。

 わかっているから、誰も再現しようとしなかった。



 音楽室の空気が、少しだけ変わる。


 ヒナタは、弦に視線を落としたまま、もう一音鳴らす。

 コウタも、何も言わずに次の音を足す。

 ハヤテは、また机を叩き始めた。


 さっきより、ほんの少しだけ、

 音の間隔が近かった。

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