第八幕:否定のナイフ、か細い悲鳴
やあ、坊や。聴いている? あんまり長いと飽きてくる? 第七幕の温もりから、扉のバンが響く。父の怒りとジェイの虚ろな目——ダンケリットは箱で震え、「妖精なんているものか!」の呪文がナイフとなる。
ねえ、坊や。聴いている?
あんまり長いと飽きてくる?
そうね、そうかも、そうかしら。
第七幕は、あの子とあたしの時間を話した。それ以上もそれ以下もない。
ーーそうよね。
えっと、
ーーそれからなんだっけ?
いま、記憶のあたしがいる所は?
語り部のあたしよ!
あたしは今も箱の中。
あたしは、いま、今日の旅だち楽しみに、夜の準備をしているの。
とっても幸せな気分。
とっても冒険な気分。
彼とあたしはネバーランドへ行き、
インディアンを蹴飛ばすの!
強い仲間をあつめるの。
全員縛り首をなんどやっても足りない大悪党!きっと、あたしも気にいるわ!
強い仲間をあつめるの!
ああ、待ち遠しい。
早く夜にならないかしら。
ーー音がする。怒鳴り声?
なんだか、近づく、地面から。
なんなの一体、誰が来るの?
部屋の扉がバンっと開かれ、
ジェームズと似たような顔の金髪男が部屋に入る。
踏み鳴らす足音で、箱が二、三度ゆれている。
あたしは怖くてたまらない。
ああ、踏み潰される。
インディアンだ!!!
ああ、ここまで来やがった!
あたしは、さっと高く飛び、様子を見る。大人がそこにいて、ジェームズ、彼がのろのろと、ついてくる。
黒い髪が影のよう。
夢も微笑みさえも、影みたい。
あたしは、彼らを見つめてた。
「ジェイ・フール!!!」と男は怒鳴る。
「お前は、ここでそう呼ばれているようだな。当然の名前だ。情けない。」
男は怒りを抑えてた。
「これは、ジェイ。お前がやった事だ。妖精なんていない。お前は、ジェイ・フール。規律も礼儀も知らない、卑怯者だ。まさに海賊だ」と男は彼にたんたんと説教を始める。
「お前の兄なら、こんな事はしない。彼なら、自分がやった事は自分がやったと言う」とゲイの優しさをこめて、あたしの少年にいう。
「さあ、ジェームズ。妖精なんていないと言いなさい」とゲイは肩を叩く。
彼の目は虚だった。あたしの目は恐怖でひきつってる。
わんわん泣き出したかった。
あの子はーーはボソっとつぶやく。
ーー呟いたの?
ゲイが、微笑む。
「もう少し、大きな声でーージェームズ」とあたしの少年に促す。
「妖精なんているものか!」とゲイはあの子に言わせる。何度も。
ああ、あの子が言った言葉はナイフ。
ナイフのようだった。
思わず、か細い悲鳴が口から飛び出す。部屋に響く。
あたしは地に落ちる。
激痛?
喪失感?
あたしの中から、砕けていく!!
ああせめて、
あたしの愛した寝床へと。
せめて、そこにーー。
あの子はかけよる。
大人には妖精は見えない。
これは、
あの子が知っている妖精の秘密。
だけど、
あたしがあの子に言わなかった秘密は知らない。
妖精は人間の子に存在を否定されると、どこかで、消える。
詳しいことはよく知らない。
誰かが話した物語。
嘘か本当か、
自分で試さにゃならないなんて。
ほんと、呆れる、なんてざま。
身体が動かなくなる。
ああ、そうだ、
まだ服のデザインを考えてなーー
ーー
ーー
第八幕は、砕け散る喪失感で閉じる。地に落ちるダンケリット、服デザインの未完——この否定の秘密が、妖精を消すのか。次幕では、始まりがループする。君の秘密は、誰に語る?