第五幕: 粉のクシャミ、死んだ夢の宣告
やあ、坊や。危険に飛び込まなきゃ、獲られないものがある。第四幕の窓から、石の巣の中へ。ダンケリットはジェイの鼻を捻り、耳をひねり、妖精の粉をかける——でも、空を飛ぶはずが、クシャミだけ。
ねえ、坊や。世の中には、危険に飛び込まなきゃ獲られないものがある。
それが何かって聞くのはヤボ。
自分で見つけるしかないの。
第四幕は、子どもたちの夢を使って、帰る手段を思いついた黒妖精。
なんて、賢い、あたしの頭脳!
えっと、
ーーそれからなんだっけ?
いま、記憶のあたしがいる所は?
石に囲まれた子どもの巣の中、
檻の中!黒髪が蛇のようにうねった子どもの目の前に、あたしはいたよ。
「あらあら、子どもの泣き声したと思ったら、ママを呼んでる弱虫さん」と年上らしい余裕を見せた、大笑い。
部屋を飛び回り、子どもの鼻をちょいと捻る。痛さのあまり、
目をつむってた。面白かった。
インディアンなら、
容赦なく、潰そうとするの!
「どしたの、どしたね、男の子。あたしゃ、ダンケリット。ーー黒妖精だ。泣き虫坊や。名前はなんだい?」と歌いながら、子どもの耳をひねる。
「いたい!なんで、こんな酷いことする?」と言われたわ。
酷いのは誰かしら!
「あらあら!うすのろ、言い返す。あたしを夢かと思わないように、ちょっと目を醒させてただけさぁ」と言いながらあたしゃウインクする。
「ボクは君を知っている」
「あたしゃあ、あんたを知らないよ」
「妖精だ。本で読んだ。」
「そうさ、そして、アンタはマヌケ」と高笑いしてやった。
「マヌケじゃない。ジェームズだ。」子どもは顔を下に向けた。
「だけど、その名前。もう使われない。今日からボクはジェイ・フール。余計なこと言ったせいで」と子どもは下唇を噛む。
マヌケなうえに、バカもつく。
「言わない口より、よっぽどマシよ。お尻がいたいの、ジェームズ?」とあたしは囁く。
「あたしに舐めさせたい?ジェイーー」と少しは優しくしてやるさ。
「もしかして、妖精の魔法?」と子どもは期待の眼差し。
「てめえで、唾をつけときな!」と子どもに平手打ち。
マヌケの相手は大変だわ。
「ねえ、君はどこから来たんだい?」と子どもはあたしに問いかけた。
あたしは部屋をぐるぐるかけて、子どもの前まできて、止まる。
「もっとまわれば、きっとどこかを思い出す。ああ、そうだ。夢の島。ネバーランドさ。こりゃけっこう!」とあたしゃ大笑い。
「夢の島、ネバーランド?どういうところ?」と子どもは、あたしに近づく。
「そこには、色んな猛獣、インディアン、幻の魔物たちとかいる場所。あたしの故郷さ。ああ、帰りたい」と話してやった。子どもの肩にとんで、腰掛ける。
「ねえねえ、フール。あんたの目、見込みある。ネバーランドについてこない?きっと、アタシら、もっと仲良くなれるさ。ここに来たいと思ってきたけど、もう帰りたくなっちまった。アンタを島にご招待! 妖精の粉さえあれば、マヌケのあんたも空を食べるわ」
あたしは子どもの夢みがちな心を利用して、故郷に帰る。
上手いこといって、
妖精の粉をかぶせて、
あたしの乗り物として利用するの。
子どもは、目を丸くさせた。
「ボクーー空を飛んでみたい」
あたしの口車に乗った子どもに妖精の粉をかけた。
羽についた黒い粉は彼の頭につく頃には光のカケラにかわる。
楽しい思い出で、身も心も、
頭の中身も空っぽさ!
だけど、不思議なことに、
空を飛ぶ気配もない。
粉のかけすぎで、
子どもはクシャミが止まらない。
なんて、マヌケ!
あたしは子どもの耳を見て、
鼻をみて、
口を見て、
目を見て思案顔さ。
恐ろしいことに、
この子どもの夢は殺されてた。
あたしは少年に告げる。
「あんたの夢は死んでいる。空を飛べない。永遠にーー」
ーー永遠に?
あたしは、自分が口走った言葉を、
頭の中で、繰り返した。
(こうして、第五幕は永遠という予言と共に幕を閉じる)
第五幕は、永遠の予言と共に閉じる。夢の死を告げたダンケリットが、自身の言葉を繰り返す——このブーメランが、妖精の心を抉るのか。次幕では、嘲笑の歌が響く。君の夢は、生き返る?