第三幕: 振り向く闇、夢なき飛行
やあ、坊や。眠い話じゃないはずよ。不快、不愉快、いまいましい! 第二幕の炎から、空を飛ぶダンケリット。月と太陽のバイバイを繰り返し、人魚の脅威を避けながら、大陸を目指す——でも、汚れた川が待つんだ。
ねえ、坊や。
眠い話じゃないはずよ。
大きな欠伸で、
なにかしら!
不快、
不愉快、
いまいましい!
第二幕は、悪夢の島のネバーランドから、逃げなきゃないけない黒妖精。
次の話をする前に、
眠気覚ましに耳お貸し!
つねってやるわ、容赦なく!
えっと、
ーーそれからなんだっけ?
いま、記憶のあたしがいる所は?
そうそう、
空を飛んでたわ。
月と共に飛んでいき、
後ろを、何度も、振り向いた。
月が何度も登ってね
眩しいイジワル太陽さん
何度もバイバイ見送った。
月の優しい光はね
そっと肌を触ってく
海面すれすれ危なくて
少し高めに飛んでいたーー
人魚の話は知っている?
波のない海面に、
時々、
獲物を探すのさ。
おやつ代わりに、
バリバリと
手の届くところにいてはダメ!
海の魔物よ!
アイツらは!
あたしは知ってる危険なこと!
だから島から出てったの!
それでも、あたしの故郷なの。
何度もバイバイ、振り向いた。
暗い海、暗い空。
誰もあたしを追いかけない。
どこまでめちゃくちゃ、
飛んだろう。
あたしの頭の中にある。
ステキな箱がこういうの。
『黒の妖精ダンケリット!
きっとこれはチャンスなの。
島では味わうことがない、
大冒険が待ってるの!』
太陽なんかかがてっぺんを
登る前に見えてきた!
大陸やっと見えてきた!
大陸向けて、
飛んでいく。
全速力で、飛び抜くわ!
うえから見たら、大興奮。
夢の島とは大違い!
変なものがたくさんあって、
キレイな葉っぱがそこにある!
やっぱり、あたしの思ったとおり。
大冒険の始まりよ。
近づく前まで、そう思ったさ。
川があんなに汚ないなんて。
魚が死んでぷかぷか。
茶色のへどろが浮かんでる。
冒険なんざ、クソくらえ!
もう帰るんだ、ネバーランドに!
あたしは、もと来たところを振り向いた。
大好きだった闇が、あたしを睨む。
そこで気づいたんだ。
あたしゃ、あそこに戻れない。
あたしにゃ、夢がない。
夢がないやつ、いけないよ。
ネバーランドにゃいけないさ!
(こうして、第三幕は幕を閉じる)
第三幕は、睨む闇と共に幕を閉じる。夢がない妖精は、ネバーランドに戻れない——この気づきが、ダンケリットの冒険を呪うのか。次幕では、魔法の豆が芽吹く。君の夢は、どれだけ伸びる?