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第10話:隠されたお宝

『無限収納のポーチ』。

その名の通り、内部が亜空間に繋がっており、容量も重さも気にすることなく、好きなだけ物を収納できる伝説級の魔法のアイテム。Sランクパーティですら、所有しているのはごく一部。そんな至宝が、今、僕たちの目の前にあった。


宿屋『木漏れ日亭』の僕たちの部屋で、エララは子供のようにはしゃいでいた。

「レオさん、見てください!この大きな岩も……ほら、入っちゃいました!全然重くないです!」

彼女が庭から持ってきたらしい、頭ほどの大きさの岩が、小さなポーチの口に吸い込まれるように消えていく。ポーチの外見は、何の変化もない。


「すごい……本当に伝説は本当だったんですね……」

僕もまた、興奮を隠せずにいた。かつて『深紅の剣』の荷物持ちとして、山のような装備や物資を背負って旅をしていた頃の苦労が嘘のようだ。このポーチ一つあれば、数ヶ月分の食料や装備、そして依頼で得た大量の素材すら、軽々と持ち運ぶことができる。


「ふふん、これで私もレオさんみたいに、荷物持ちができますね!」

エララは得意げにポーチを腰に提げ、ポーズを決めてみせる。その無邪気な姿に、僕は思わず笑ってしまった。


「……ただ、エララさん」

僕は真剣な声で、彼女に注意を促す。

「このポーチのことは、絶対に二人だけの秘密にしてください。これほどのアイテムだと知られれば、どんな危険が及ぶかわかりません」

「はい、もちろんです!」

エララはこくりと頷き、真剣な表情でポーチをぎゅっと握りしめた。

「これは、私たち『アイテムコレコレクターズ』の、最初の、そして最高のお宝ですから」


その言葉は、僕たちの間に確かな信頼と、秘密を共有する仲間としての強い絆を生み出してくれた。


この『無限収納のポーチ』の発見は、僕たちの冒険者としての方針を、大きく変えるきっかけとなった。

これまでの僕たちの目標は、日々の生活費と、最低限の装備を整えるためのお金を稼ぐことだった。だが、このポーチがあれば、もっと先を見据えることができる。


「エララさん。少し、これからの話をしませんか?」

僕はテーブルの上に、昨日までの依頼で稼いだ銀貨を並べた。合計、八枚。僕にとっては、とてつもない大金だ。


「まず、このお金で、僕たちの装備を新調しましょう」

「賛成です!レオさんのその服、もうボロボロですもんね!」

「……否定はしません」

僕は苦笑しながら、計画を続ける。

「そして、これからはもっと戦略的に依頼を選びます。僕のスキルは、ただ戦闘を補助するだけじゃない。昨日のように、隠された価値を見つけ出すことにも使える。だから、討伐依頼だけじゃなく、探索系の依頼も積極的に受けていくのはどうでしょう」


「なるほど!『アイテムコレクターズ』の名前にぴったりですね!」

「はい。そして、そのためにも、僕たちはもっと強くならなければなりません。エララさんは魔力を高める訓練を。僕は、スキルの精度と、集中力の持続時間を延ばす訓練をします」


僕の提案に、エララは目を輝かせながら何度も頷いた。

漠然とした冒険ではなく、明確な目標と計画。それは、僕が『深紅の剣』で培った、唯一の得意分野だった。かつては他人のために立てていたその計画を、今は自分と、信頼するパートナーのために立てている。その事実に、僕は静かな喜びを感じていた。


計画は決まった。善は急げだ。

僕たちは稼いだ銀貨を手に、ハルモニアの市場へと向かった。目的は、装備の新調だ。


「わあ、すごい!この鎧、綺麗です!」

エララが、彫金の施された銀色の軽鎧に目を輝かせる。

「エララさん、それは装飾品です。綺麗ですが、防御力はほとんどありませんよ」

「えー、そうなんですか?」

「こちらの革鎧の方が、軽くて丈夫です。魔法使いは、防御力よりも動きやすさを重視した方がいい」


僕は、革製品を扱う店の店先に並んだ商品を、一つ一つ手に取っていく。そして、スキルを発動した。

【整理整頓】――目標:革鎧。状態:品質の『把握』。

(……なめしが甘い。こっちのステッチは雑だ。ああ、これは完璧だ。革の質も、縫製も、非の打ちどころがない)


「ご主人。この鎧をください」

僕が選んだのは、見た目は地味だが、熟練の職人が作ったであろう、極めて品質の高い革鎧だった。

「ほう、坊主、なかなか目が高いな。そいつは俺の親父が作った、この店で一番の品だ。少し高いぜ?」

「構いません」


僕たちは、僕のスキルを駆使して、最高の品質の品だけを、適正な価格で買い揃えていった。

僕には、丈夫な革の胸当てとブーツ、そして護身用の短剣。

エララには、僕が選んだ上質な革鎧と、魔力の伝導率が良いという特殊な木材で作られた、新しい杖を。


全ての買い物を終え、宿屋に戻った頃には、日はすっかり傾いていた。

部屋のベッドの上に、今日手に入れた新しい装備を並べる。

それは、王都の高級店で売られているような、華美な装飾が施されたものではない。だが、どれも実用性に富んだ、信頼できる一級品だ。


僕たちは、まるで子供のように、新しい装備を身につけてみた。

しっかりとした革の感触。ずっしりとした、しかし心地よい重み。

鏡に映った僕たちの姿は、昨日までの、どこか頼りない新人冒険者のそれとはまるで違って見えた。


「なんだか……私たち、本物の冒険者みたいですね」

エララが、少し照れくさそうに言った。

「ええ、本当に」


僕たちの手には、新しい装備。

腰には、伝説級の『無限収納のポーチ』。

そして何より、隣には、互いを信じられる最高のパートナーがいる。


追放されたあの日、僕には何もなかった。

だが、今は違う。

僕はこの手で、一つ一つ、自分の居場所と未来を築き上げている。


「さて、と」

僕は壁に貼ったギルドの依頼リストに目を向けた。

「明日は、どの依頼を受けましょうか」

僕たちの視線は、もうGランクの依頼書にはなかった。その一つ上、Eランクの依頼が並ぶ一角を、僕たちは見つめていた。

次のステージは、もう目の前だ。

僕たちの胸は、これから始まる本当の冒G冒険への期待で、大きく膨らんでいた。

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