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田中蓮の健康相談所  作者: ヒトラボ
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ざわめき

今日は雨だ。

アパートの階段を降り切ると同時に、勢いよく傘は開いた。

コンビニのビニール傘だが、3年もっている。

国家試験の合格が嬉しくてスキップしてコンビニに向かったが、いきなり土砂降りになって買った傘だった。

「なつかしいなぁ」

ふと飛び出る一言に自分で驚きながら、笑顔で病院へ向かった。


今日はさとみに会いたかった。

でも、最初に話したのは残念ながら技師長だった。

「おう。」

テンションの低さをびりびり感じ、

「おはようございますっ」

と逃げるように返事。

私とすれ違った技師長は、副技師長の二人とリハビリ室の隅で何か話し始める。

「なんかあった?」

同期で入職して割と話す鈴木一郎君に話しかける。

もちろん理学療法士になったきっかけは、イチローを目指したが怪我をして野球をあきらめたからである。

「なんか、わかんないっすけど、難しい話みたいっすね。」

多分、怪我をしなくてももう少しハッキリしないとイチローにはなれなかっただろうね。と心の中で嘲笑しながら話を続ける。

「結構表情険しいね。誰かなんかした?」

「俺は何もしてないっすよ!」

自己保身に走る一郎君を透かした目で見つめ、

「ほんと―?」と問いただす。

「マジですよ!マジ!」

このやり取りに少し飽きて、

「あっそ。」と気のない返事をする。

でも何があったんだろう?

リハビリ室の隅で話し続ける3人に注意を向ける。

「・・・辞めるのは構わない。でも・・・」

さぁ、ここからどう想像しよう。技師長が副技師長と相談するくらいなので、同僚の誰かが辞表を出したのか?これが第一候補。

跡は医師・役員の顔がちらほらしたが、こちらの意思に関係ない議論は意味がないと思って思考を辞めた。


腹部大動脈が破れ、奇跡的に助かって目を覚ました小田さんと一緒にゆっくりと全身の関節可動域訓練をこなした夕方。

「おい。蓮。今少し話せるか?」

楽しかったような一日を、黒く染め上げる技師長の声に、

「帰りたいっす。」と返事をする。

「おまえ、一郎と仲いいか?」

と、こちらの意見をガン無視した質問が来る。今朝の話し合いを思い出し、一郎をぶっ飛ばすことを誓いながら、

「普通っすね。」と気のない返事をする。

「あいつ、ここ辞めてYouTuberになるっていうんだよ」

しばらく思考は停止した。3秒くらい固まって、

「何がどうなってそうなったんですか?」とようやく聞き返す。

「辞表は普通。内容はありきたり。でも受け取った後問いただしたら、今のリハビリに満足してないっていうんだよ。」

今度は目が乾くほどの衝撃を受け、4秒固まる。

「あいつ、下手でしたっけ?」やっとの思いで聞き返す。

「コミュはいいよ?わりと聞き上手。ただ、あんまり難しい症例は任せてない。安心感無いから。飽きたか?」

結論を急ぐ技師長に、

「教育不足。」とぶっきらぼう。

「お前はいいよ。なんか力強い。馬鹿だけど、よく見てる。」

急に複雑な気持ちがあふれ、

「あっありがとうごじゃります。でも、一郎君も頑張ってますけどね~。」と変なテンションの返事。

「まぁとにかく、今の現状に不満があるし、やりたいことは明白。止める義理は無い。ただ、みんなどう思っているのか少し気になってな。」

私は急に自分に目標が無くて悩んでいることを思い出し、テンションダウンしながら、

「あたしはなんとも。がんばれイチロー。」と気のない返事をして会話を終了した。

また、技師長の大きなため息が聞こえた。

なんだか、一郎に負けた気がした。

だって目標あるじゃん。

すぐ、さとみの声が聴きたかった。

すぐ、電話した。

「なーに―。ラーメンもっかい行く?」

「なんでわかんのっ?」

やっとこぼれた自分の笑顔に安心し、女性ホルモンの基を足早に食べに行った。

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