第4章:雷対策会議と、佐倉さんの大冒険
アメリーの「雷が轟く」予報は、そよ風町に小さな波紋を広げた。普段はへっぽこ予報に慣れっこな大人たちも、さすがに雷と聞けば顔色を変える。町内会長の大森耕作は、緊急の「雷対策会議」を招集した。集まった大人たちの間には、夏祭りの準備に水を差されたような、どこか重苦しい空気が漂っていた。
会議の席で、佐倉大輝は都会で培った経験とデータに基づき、冷静に提案した。「現状のフェスティバル会場では、落雷時の避難経路や設備の安全性が不足しています。最悪の場合、中止も視野に入れるべきかと…」。彼の言葉は、現実的で、論理的だった。だが、ハルカの心には、諦めきれない夏祭りのきらめきがあった。
「でも、雷が降らなかったらどうするの?アそしたら、こんなに頑張って準備したのに、全部無駄になっちゃう!」ハルカは、震える声でそう訴えた。その必死な瞳に、緑川校長はそっと頷き、佐倉に目を向けた。「佐倉さん、アメリーさんの予報は確かに不思議です。しかし、この町では、その『ズレ』が新たな発想を生み出してきたのも事実です。何か、他にできることはないでしょうか?」
緑川校長の言葉に、佐倉は考え込んだ。彼の頭の中では、これまでのデータとアメリーの予報がちぐはぐに交錯する。しかし、ハルカの純粋な情熱と、町の人々の信頼が、彼の冷徹な論理の壁に小さな亀裂を入れていく。彼は意を決したように言った。「…分かりました。雷対策と並行して、アメリーさんの予報を『逆手に取る』方法を考えましょう」。
佐倉の提案に、ハルカの顔がパッと輝いた。彼はまず、アメリーの予報の「ズレ」の法則性を探るべく、気象観測所へ向かうことにした。錆びた扉をギイギイと開け、薄暗い観測所の中へ足を踏み入れる。古めかしい機械が並ぶ中で、彼は壁に貼られた過去の予報と、その後の実際の天気を照合し始めた。アメリーは、彼が観測所に入ってきても、気にも留めずにゆらゆらと浮いていた。
記録されたデータは、驚くべきものだった。アメリーが「雷」を予報した日には、なぜか必ず「晴天続きの後の急な恵みの雨」が降っていたのだ!しかも、その雨は、作物の生育に絶妙なタイミングで降り、土壌の乾燥を防ぐ完璧な量だった。「これは…偶然なのか?それとも…?」佐倉は、アメリーのへっぽこ予報の中に隠された、驚くべき法則性を見つけ始めていた。
佐倉の報告は、町の人々に衝撃を与えた。「雷」の予報は、「恵みの雨」のサインだったのだ。町内会長は、「ならば、今年のフェスティバルは、雨対策を万全にしながら、同時に『恵みの雨』をテーマにした、特別な祭りにしてしまおう!」と宣言した。ハルカたちの「虹色の綿あめ計画」に、「恵みの雨」の要素が加わり、祭りはさらにユニークなものへと変貌していく。
佐倉の顔には、これまでの懐疑心が消え、新たな発見への興奮が浮かんでいた。彼はアメリーに近づき、ぎこちないながらも尋ねた。「アメリーさん、あなたの予報は、まるで未来からの贈り物ですね」。アメリーは、何も言わずに、傘の先端から、いつもより少し大きなシャボン玉をふわりと飛ばした。それは、彼女なりの「ありがとう」のサインだったのかもしれない。祭りの本番まで、あとわずか。そよ風町の空には、恵みの雨と、そして何か大きな「奇跡」の予感が満ちていた。