第3章:虹色の綿あめ計画、そして予期せぬ雷雲
緑川校長の言葉は、ハルカの心に火を灯した。ただ予報が当たるか外れるかを心配するのではなく、その「ズレ」をどう祭りの中に活かすか。そんな視点に立ってみると、アメリーの「虹色の綿あめ」という予報が、とんでもない発想の種に見えてきた。ハルカは、今までになく胸を弾ませながら、実行委員の仲間たちに自分のアイデアをぶつけた。
「ねえ、もし本当に虹色の綿あめが降ってきたら、どうなると思う?」ハルカの問いに、最初はみんな呆れた顔をした。無理もない。しかし、ハルカは熱心に語った。「アメリーちゃんの予報って、いつも最後にいいことにつながるんだよ!だから、もし降ってこなくても、『虹色の綿あめが降るような夢のお祭り』にしたらどうかな?」ハその言葉に、みんなの顔つきが変わっていく。
ハルカたちは、早速「虹色の綿あめ計画」を始動した。それは、フェスティバルの会場を、まるで虹色の綿あめが空から降ってきたかのように飾り付ける、というものだった。カラフルな布を天蓋のように張り巡らせ、巨大な綿あめ型のオブジェを吊り下げ、夜には色とりどりの光で照らす。想像するだけで、ワクワクが止まらない。
しかし、アメリーの次なる予報は、ハルカたちの熱気を一気に冷ますようなものだった。「ええと、ですね、数日中に、雷が、まるで怒れる神の咆哮のように、ですね、激しく轟くでしょう。落雷には、十分ご注意くださいませ」アメリーは、傘の先端の羅針盤を真っ赤に光らせ、どこか不安げにそう告げた。その瞬間、遠くの空に、確かに黒い雲がうっすらと見えた気がした。
実行委員の大人たちは顔を見合わせた。「雷、ですか…まさか、本番じゃないでしょうね?」「アメリーちゃんの予報は外れるから大丈夫、と信じたいけど…」特に心配そうだったのは、今年からそよ風町に引っ越してきた、イベント会社の若い担当者、佐倉大輝だ。彼は、都会的で清潔感のある服装と、常に持ち歩いているタブレットが特徴的だ。
彼は、これまで「データ」と「実績」に基づいてイベントを成功させてきた人間だ。アメリーの予測不能な予報は、彼の論理的な思考回路を激しく揺さぶった。都会では、天気予報が外れることなど滅多になかった。アメリーの存在は、佐倉にとって、理解不能な謎だった。
アメリーの予報が外れることに慣れている町の人々も、雷だけは別だ。落雷は、甚大な被害をもたらす可能性もある。町内会長の大森耕作は、眉間に深い皺を寄せた。緑川校長も、子供たちの安全を第一に考え、頭を抱える。「雷が轟く」というアメリーの予報は、フェスティバルを成功させたいハルカたちと、安全を確保したい大人たちの間に、小さく、しかし確かな緊張をもたらした。アメリーは、ただの「へっぽこ予報士」ではなかった。彼女の言葉は、これから起こる町の大きな試練の始まりを告げていたのだ。