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第2章:へっぽこ予報と、大人たちの算段

アメリーが紡ぎ出す予報は、まるで昔話のようだった。機械の言葉とは思えないほど、感情が込められているかのような独特の比喩表現が、町の大人たちをいつも困惑させた。「明日は、風が、ええと、ですね、まるで子供のささやきのように、ですね、優しく、しかし、力強く吹き荒れるでしょう」などと聞かされれば、誰だって首を傾げるだろう。それでも、彼らはアメリーの予報を完全に無視することはできなかった。


なぜなら、この「そよ風町」の人々は、長年の経験からアメリーの予報が外れるたびに、何か良いことが起こるという奇妙な法則を肌で感じていたからだ。例えば、町内会長の大森耕作おおもり こうさく。腰をかがめても背筋がピンと伸びた、日焼けした顔に皺の深い、畑仕事一筋のベテラン農家だ。彼はアメリーの「明日は大雪☃️」という予報を聞いて、慌てて大根の収穫を早めたことがあった。結果、雪は降らず、代わりに記録的な猛暑が訪れた。大森さんの大根は、他の農家の倍の値段で売れ、彼はホクホク顔だったという逸話もある。


大森町内会長は、フェスティバルの準備で忙しく動き回るハルカと実行委員の面々を、優しい目で見守っていた。彼は、アメリーの予報を「神様からのいたずら半分、ヒント半分」と捉えている。今年の「きらめきフェスティバル」も、アメリーのへっぽこ予報に翻弄されることは目に見えていた。町内会長の脳裏には、昨年、アメリーの「フェスティバル当日は、空から魚が降るでしょう」という予報に、町中が混乱した記憶が蘇る。


結局、魚は降らなかったが、その予報を真に受けた一部の漁師たちが大量に魚を水揚げしすぎた結果、町中が新鮮な魚の格安販売で賑わった。それがきっかけで、そよ風町は「新鮮な海の幸が手に入る町」として観光客が訪れるようになり、漁業が活性化したのだ。アメリーは、まるで何も知らないかのように、その日も丘の上でゆらゆらと揺れていた。


そんなアメリーを、教育的視点から興味深く観察している人物がいた。町の小学校の校長先生、緑川静子みどりかわ しずこだ。彼女はいつも清潔な白いブラウスに、知的な丸眼鏡をかけた、穏やかな物腰の女性だ。子供たちの自由な発想を大切にする教育方針で、アメリーの「へっぽこ予報」を、子供たちの思考力を鍛える最高の教材だと考えていた。


「ねえ、校長先生。アメリーちゃんの言う通り、本当に虹色の綿あめが降るのかな?」ハルカが不安そうに尋ねた。「ふふ、どうでしょうね。でも、もし降らなかったとして、じゃあ、その代わりに何が起こったら、もっと素敵なフェスティバルになるかしら?」緑川校長は、ハルカの瞳をまっすぐ見つめながら、優しく問いかけた。その言葉は、ハルカの心に、新しい風を吹き込んだようだった。予報が外れることに怯えるのではなく、その「ズレ」をどう活用するか。それが、そよ風町の大人たちがアメリーから無意識に学んできた、人生の哲学でもあったのだ。

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