大騒動
さかのぼること数時間前、
ピクシーとカリーナと(半ば強引に)別れた後、リビアとヴェラは2人は街の酒場や市場など、活気に満ちた場所を中心に、秘宝に関する情報を集めていた。
3回ほど飲んだくれの溜まる酒場で御伽話を信じているのかと笑ってきた酒飲み共を返り討ちに合わせた後、市場で島の外に詳しい人について教えてもらい、港で漁帰りの船乗りたちから話を聞いた。
海賊の秘宝についての情報が得られた頃には日が沈み出している。
「さぁ、船に戻って準備をしようか。今頃きっとカリーナが必要なものは買ってくれているだろう。明日には出港するぞ!」
そう言いながら船に帰り道を歩み始めた。
日が沈み、空が闇で覆われるにつれて、酒場や宿にも明かりがつき、ぽつぽつとした明るさは空の星にも負けてなかった。
「ハハッ、コレは今夜も街は賑やかになりそうだな!」
そう笑いながら街並みを眺めていたそのとき、2人に何かがぶつかった。
見下ろすと古びた布の塊があった。
「ご、ごめんなさい」
布の塊は大きなローブだった。その中から女性の声がした。
「ごめんなさい、急いでるんです。」
弱々しい声を上げながら、ローブの隙間から顔を覗かせて言った。
「あ、大丈夫だよ〜、気をつけてね」
ヴェラは手を振りながら道を開けた。
「ごめんなさい」
その間を通りながら、少女はまた謝った。
「あぁ、別に構わんさ。私達の財布を返してくれるのならな。」
そう言い切る前にリビアはローブの襟を掴んだ。
その言葉を聞いてヴェラはポケットを確認し、本当に財布がなくなった事に気づく。
「アレ!?本当だ!お財布がない!」
「さぁ、返してもらおうか」
「…チッ」
舌打ちと同時に女は掴まれているローブを脱ぎ、投げつけた。
「クソッ、今日は調子が良かったのに」
そう言って人混みを抜けた。
「なるほど、あの格好は乞食のふりではなかったということか」
そう言って体にまとわりついたローブを放るリビアにヴェラは慌てるままだった。
「船長!どうしよう」
「任せろ!」
女はこの周りでは有名なスリだった。
旅客を狙っては貧しい人間のフリをしてぶつかり、人混みの中へ消えていく。
狙われた相手がの金を無くして悔しがるのはそれから数分後のことだった。
万が一気づかれたとしても、彼女は慌てない。小柄な体と足の速さを活かして通行人の間をすり抜けては路地裏へと消えていく。
そうして彼女は幾度となく死地を掻い潜り、今日まで生きていた。
(この時間は宿に向かう人で溢れかえっている。こんな人混みで私に追いつくのは不可能だし、銃なんてもってのほか。諦めな)
勝ち誇ったように考えながら、いつものように抜け道目掛けて走っていた時
ドォン!
という音が響いた。
振り向くとさっきの獲物が空に向けて銃をあげていた。
そのまま続けて空砲をまた2発撃った時には大通りにいた人間は怯えて体を地に伏せていた。
「ウソでしょ?な、何をして…」
そうしてコソ泥と目が合ったリビアはニヤリと笑った。
その時、コソ泥は呆然と立ち尽くしている自分こそが今、1番目立っていたいることに気づいた
「クソッ」
さっきと同じセリフを吐きながら再び走り出した。
(まだ慌てるな、それでもアイツがこの人混みを避けてここまで進むのは…)
そう言いながら軽やかな身のこなしでうずくまっている人たちを飛び越えながら進むと
その時、今度は大声が聞こえた。
「頼んだぞ、ヴェラ!」
「いっけぇーーーーーーー!」
という掛け声と共に今度はあの発砲した獲物が今度はこっちに飛んできた。
大砲の如く飛んできたリビアが不適な笑みを浮かべながらこっちに手を伸ばす。
「ウソでしょ!?」
コソ泥は慌てて間一髪その手を逃れ、路地裏へ逃げ込んだ。
リビアは受け身をして、すぐに体勢を立てなおすとそのまま路地裏へ進んだ。
「クソッ、アイツまだ追ってくる。なんなの!?」
今までにない疲れと執念を感じながらも、捕まる恐怖を振り切るようにコソ泥は走る足を止めなかった。
周りのゴミ箱や木箱をひっくり返しては追っ手の足を止めようとしたが、彼女との距離はほとんど開かなかった。
「この私から逃げられると思うな!」
そう言い放つと同時にリビアは銃を手にした。
「その手にはかからないよ!どうせまた空砲でしょ?」
「それはどうかな?」
そう言いながら銃に弾を込めた。
(本気!?ウソでしょ?)
今日何回目であろうそのセリフを心で吐きながら物陰に身を隠しながら走る。
「それで隠れたつもりか!?」
リビアはそう相手に言い放ち銃を撃った。
またドォンという音が聞こえたが、体に痛みが走る事はなかった。
「外したね」
コソ泥は勝利を確信して気が緩んだ瞬間
頭の上に何かが落ちてきた。
「うう、何これ!?前が…」
無数の衣服だった。彼女が撃ったのは、宿屋の2階の窓から吊るして合った洗濯物のようだ。
「まさか、コレが狙いで…!?」
コソ泥は視界を遮る衣服を取ろうとする前に押し倒された。
コソ泥はリビアに捕まった後、追いついたヴェラに羽交締めにされた。
そしてちょうどその頃、買い物を終えてピクシーを迎えに行ったカリーナは大通りでの騒ぎに嫌な予感を感じて、その中を歩いていたところ、3人に合流した。
カリーナは事情を街の街の衛兵に話したあと、自分たちの分と他の人の財布(とさっき落とした洗濯物)を持ち主に返してからそのまま船に戻った。
「いっつも変な物買ってくるけど、今日の『買い物』はまたとんでもないね。」
ことの成り行きを聞いたカリーナははしばらく呆然とした後、ようやく言葉を出した。
「船長すっごくカッコよかったよ!この子を捕まえるためにずっと走ってたんだよ!」
ヴェラが船長の勇姿を漫然と語る間、羽交締めにされている泥棒は必死にもがいたが、びくともしなかった。
まるで十字架に貼り付けられているようだった。
「コラッ、もう大人しくして!」
(クソッ、なんなのコイツ?びくともしない…)
「残念だったな、ヴェラの腕の強さでは故郷の島では右に出るものはいなかったからな!
それにしてもいい脚と腕前だったが盗む相手は選ばないとな」
そう言いながら、リビアは詰め寄った。
「で、どうする気?憂さ晴らしに船の上で処刑でもするの?そっちの方がずっといいかも。正直、こんな生き方うんざりしてたし。」
「そんな血生臭い事しないよ。ていうか盗みで生計立てといて、随分な言葉だね」
女の返事にピクシーは返す。
「ねぇ、なんでこんな子連れてきたの?衛兵に渡せばよかったのに。」
「気に入ったからだ」
ピクシーの質問にリビアは笑いながら答え、再びコソ泥に向いて言った。
「お前、私たちのクルーにならないか?」
「「「「え?」」」」
一瞬の静寂のうち、船にいたみんなが船長に顔を向けた。




