人生二週目講座
時期はシャルマーニ侯爵邸にカイン王子が遊びに来ることに慣れてきた夏前頃。
ある日の食後のまったりタイムで、侍女には聞かせられないリナリアの前世の話をしています。
人生二周目に必要なこと。
それは基本ステータスの底上げである。
「姉様……ちょっと何言ってるか分からないよ。」
いつもの子供用サロンで侍女達を下がらせてのまったり時間。
白銀髪紫瞳の天使なカイン王子と灰金髪空色瞳の将来有望間違い無しな弟のユリウスと私、リナリアの三人でお喋りしている。
カインもユリウスも私に前世の記憶がよみがえってしまった事を普通の事のように受け入れてくれた。
それどころか興味津々で前世の話を聞きたがるのだ。
私としても今世とあまりにも違いすぎる前世の生活の常識が混ざっていて、どれが正解か分からず混乱するので、こうして話す事で指摘してもらい整理できるのは非常にありがたい。
それで今日のテーマは、
「今、将来のためにすべきこと」
だ。
自己啓発セミナーみたいなテーマだわ。
でも異世界転生といったら幼少期のチートとステータスアップはセオリーよね。私も前世では多少のラノベを嗜んでいたから、こういうセオリー的な物は分かるつもり。
実際、十歳の今からでも遅くはないだろうと日々実践しているのだが…その話をしていたらカインとユリウスが「その話、詳しくっ!」と食いついてきたのだ。
「リーナ、すてーたす、とは?」
見てるだけで幸せな外見のカインに尋ねられる。
「ステータスっていうのは、自分の現在の能力とかの事よ。」
「それで基本ステータスの底上げ?…って?」
何言ってるか分からないと呟いてた賢い弟のユリウスが尋ねる。
「そうねぇ…アビリティアップは言うまでもないでしょ?この世界にレベルって概念があるのか分からないけど…レベルアップはしときたいわよね。私の生まれは侯爵令嬢だから社会的地位は申し分ないから良いとして…あとは所持金よね。」
後半は小声になりながら一本一本指を折り曲げ確認する。
「あ……あびりてぃ……?」
「アビリティーー能力値よ。筋力、知能、器用度、敏捷性、生命力、精神力……とかかしら?」
「「……あびりてぃ……」」
二人とも思案顔で繰り返す。
能力値っていうと、昔やってたTRPGを思い出すわ〜
勝手に設定されてるコンピュータのゲームと違い、紙とペンとサイコロで遊ぶTTRPGは最初にサイコロを振って能力値を決めるのよね。ダイスの出目で戦士になったり魔法使いになったり盗賊やったり……懐かし〜
「つまり、いかに若いうちに体力をつけて、勉強して知識を蓄え、知能を高め、色々経験して自分を鍛えるかって事が大事っていう話よ。」
やっぱり人生二週目異世界転生のセオリーはいかに人生のスタートダッシュを決めるかって事だものね。
神様からのギフトとかチートスキルとかは言われてないから貰ってない……あ、風華がチートって言えばチートか。
「リーナの言うことを疑うわけじゃないけど……」
カインが複雑な顔をしている。
「うん?」
「教師の皆が同じ事言ってた。」
「そりゃそうでしょうね。」
私だってそう思うわ。
教師だけじゃなくて自分より年上の人は多分同じ事を言うと思う。
それは自分が生きてきてそれなりに経験値を貯めてきているから。
それなりに後悔と成功体験をしているからそれを後輩に伝えたいと思ってくれる。
勉強も体力作りも様々な体験も。
出来たら失敗なんて経験せずに生きて欲しいと思ってしまう。
「まあ、失敗している記憶がある分二週目の人生が有利なのは確かよね。」
うんうん。
私がドヤ顔でうなづいて呟くと、胡乱な目をしてユリウスがこっちを見た。
「姉様……二週目なのに最近母様のお小言が多い気がするのですが?」
ユリウスの言葉に私はスっと目を逸らした。
「だって私は平民の人生の一回目は経験しているけど、侯爵令嬢の人生は初めてですもの。しょうがないわよね?」
そう言っててへぺろ、と誤魔化す。
そう。
今世は私の前世の経験値があまり活かせれないのだ。
マナーだって複雑だし、
淑女教育は窮屈なことが多い。
経験はないが、何故それが必要なのかということが薄っすらとでも理解出来るので頑張って覚えているのだが……侯爵令嬢、面倒くさい。
「まあ、結局初見な事が多いのよ。前世は貴族とか居なかったし、王族……皇族とか…はるか雲の上の存在で話では聞くけど見るなんてよっぽどだったんだもの。」
一般庶民にとって天皇家はニュースで見るか、田舎のおばあちゃん家に掛けてある天皇家カレンダーぐらいしか見た覚えがないわ。
「リナリアとしてループしてる訳じゃないからあんまり得してると思えないわね。」
「「るーぷ??」」
私が愚痴る様に言い訳すると、耳慣れない言葉にまたもや二人とも喰いつく。
「姉様、るーぷ、とは?」
ユリウスが眉をしかめて聞いてくる。
「ん?ループっていうのは、ある一定の期間の人生だけ繰り返している状態の事よ?」
確かそういう認識でいいのよね?
「えっ!?そんな状態になっちゃう者も居たのか!?」
ギョッとしてカインが叫ぶ。
「私も実際に見たことは無いけど、そういう事も有るかもね?ぐらいな感じで認識されてたわよ?」
例えば婚約破棄の断罪パーティから死ぬまでを7回とか、夏休みの最後二週間を1万5532回繰り返すとか……
「リーナの前世って……恐ろしいな…」
「自分がこんな異世界転生してるからね〜全くの作り話と言いきれないわ。」
ドン引きしている二人を後目に明るく笑っておく。
「つまるところ、毎日勉強も運動も遊びもみんな頑張ればいいって言う事よ!」
うん。
私もこの先何があるか分からないから、当初の予定通り基本ステータスアップを目標に頑張ろう!
おーっ!