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ロんリーヴァンプ!  作者: 志麻智彦
二章
6/21

何をされたのでしょうか。

 「…………」


 今。龍崎葵はかなり気まずい思いで居心地の悪さに苛まれていた。

 頭上で輝くシャンデリアに室内の中央で伸びる白いテーブルクロスがかけられた長机。どこかレトロで落ち着きのある内装のくせに、なぜか黒い遮光カーテンで全ての窓が覆われている。


 「…………」

 なんか想定してたのと違う。

 今の葵の心中はそんな気持ちでいっぱいだった——。


 その確固たる原因というのが、葵を出迎えた『ゴスロリ衣装の少女たち』だったのだが……。なぜか彼女たちは葵の顔を見るや否やすぐにどこかへ行ってしまった。

 その後、メイド服姿の少女に挨拶されこの部屋へと案内されて——今へと至る。


 (なんだ、ここは。一体俺はどんなとこに連れて来られたんだ!?)


 場の雰囲気と来訪者と言う体裁があるため大声は出せないが、葵は今すぐにどこかだだっ広い場所に飛び出して叫びたい気分で満たされていた。

 「あ、あのー……」

 「はい。なんでしょうか?」

 葵はたまらず部屋の入り口扉付近で佇んでいるメイド服の少女へ声をかけた。

 眉ひとつ動かさない彼女はまるビスクドールのような印象を抱かせる。

 「……あの子たちは?」

 「時期に来ると思います。しばしお待ちください」

 「はぁ……」

 機械のように端的に答えるメイド少女。その感情のこもっていない口ぶりに葵の心はさらに不安感が増していく。

 (……にしても、こんなとこに女の子だけしかいないのか……?)

 胸中に浮かぶ疑念と同時に、葵の不信感も高まっていく。

 その時——部屋に置かれている柱時計が音を鳴り響かせた。

 「……怖いな」

 大きく低い音が室内に響き渡る。葵がチラッ、と視線をやると時計の針が十二のところで重なり合った。

 やがて鳴り響く時計の音——。


 それと同時————部屋の入り口扉が勢いよく開け放たれたのだ。


 「————」

 龍崎葵は目を大きく見開かせ唾を飲み込む。

 開け放たれた扉の向こうから————先ほど葵を迎えてくれた『五人のゴスロリ少女』たちが姿を現した。

 「…………ほんとになんなんだよここ」

 葵は半ば呆然とそう口から零していた。そんな葵を気にする素振りひとつみせず——ゴスロリ少女たちは葵のもとへ近づいてくる。

 彼女たちの手には銀色のトレイがのせられていた。どうやら各自一品ずつ料理を持って来ている様子だ。

 「…………」

 やがて銀のトレイを持ったゴスロリ少女たちに囲まれた葵は、謎に緊張感が高まって息苦しくなってきた。

 状況を一切知らぬ人が見れば少女たちに囲まれた幸せな男に見えるのだろうか。中にはこの状況が羨ましく血涙を流す人もいるのかもしれない。

 (——こっちが泣きたいくらいだぜ)

 部屋の入り口扉付近に立つメイド少女へ視線を向ける葵。すると、そのメイド少女は————ガチャリ。と扉を閉め切った。

 (——なにぃ!?)

 完全密室にされ、逃げ場を失った葵は瞠目した。

 「ようこそいらっしゃいました————我が『アルカディア』へ」

 「……は?」

 急に背後に立つ『赤髪の少女』がそう言い出した。

 (……あれ? この子どこかで……)

 赤髪の少女を見て、記憶の隅に引っかかりを感じた葵。

 そんな葵の気など知る由もない彼女たちは、各自持ってきたトレイにのせた料理をテーブルの上に置いていく。

 五人分で——五品が葵の眼前に並べられるのだが……なぜかどれも『赤い』ことが葵は気になって仕方ない。

 「……なんか、赤くね?」

 「赤は万物の『糧』ですわ。私たちの『象徴』でもありますの」

 応えたのは軽くウェーブのかかった亜麻色髪のゴスロリ少女だ。

 彼女の隣に立つ金髪ゴスロリ少女はなにか『衝動』を必死に堪えるかのように全身をプルプルと震わせていた。

 「…………」

 試しに、と。

 葵は眼前に並べられた料理の一品を手に持ち、金髪少女の鼻元へと近づけた。

 「……じゅるり」

 少女の口端から唾液が零れた。

 「やっぱお前これ食べたいんだろ」

 「め、めっそうもございません。こ、この豚野郎!」

 「…………」

 料理を見ないように、力いっぱいに目を閉じる金髪少女。

 葵はチラッ、と視線を横にズラすと————紫紺の髪をしたゴスロリ少女もどこか辛そうな顔つきをしているのも見た。

 「……はぁ」

 なにがなんやら、と呆然となる葵。その隙にメイド少女が葵の眼前にフォークとスプーンを用意していた。あまりに一瞬の動きのため、葵は気づくことがない。

 「……ありゃ、いつの間に」

 そんな間の抜けた発言をするだけしかできなかった。

 「さぁ————召し上がれ。『豚野郎』様」

 「…………」

 なんともその言い草にツッコミを入れたかった葵だが、目を閉じて佇んでいる少女たちを見てしまっては言葉の溜飲が下がっていく。

 「……食べなきゃダメ?」

 「そのために私たちが作ったんですよ? 豚野郎に食べない権限などあると思いで?」

 「……その間違った解釈とセリフについて話し合いを要求したいのだが」

 「却下させていただきます」

 「ちょ、メイドさん!?」

 葵の言葉を一刀両断するメイド少女。どうやら彼女が少女たちに知識を与えているようだ。

 (……ごくり)

 喉をひとつ鳴らし、葵は意を決して——テーブルの上に並べられた料理へと手を差し伸ばす。

 「————」

 どれも赤い液状の品なのだが、それぞれ飲み干していく。やたら鉄錆くさい匂いとザラっとした舌触りに若干の気持ち悪さを覚えた。

 「……ぷはぁ」

 脳に味覚を感じさせる前に全てを飲み干してしまおうと、一気に啜っていった葵。ものの数分も経たずして全て飲み干してみせた。

 お腹の中に溜まる感覚と脳が揺れるような錯覚に苛まれつつも——葵はなんとか耐え切る。

 「————アァ」

 途端、葵の視界が急にぐらついた。

 一瞬、気でも緩ませすぎたのかと思ったが——どうやら違うようだ。

 本気で意識が途絶えていく。そんなハッキリした感覚に襲われていた。

 (——なにを仕組んでやがったッ)

 失われていく意識に抗えず。龍崎葵はその瞼をゆっくりと閉ざしていく。

 その際、微かに聞こえてきた——『少女たち』の声を葵は耳で聞き取っていた。


 ————これで、彼が『適応』してくれると良いんだけど。

 ————あれ? この人どこかで会ったこ気がする……。


 (こいつら……一体、なにもんなんだ……)


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