メリル、面会も終わりレイナに胸を確認して貰う
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レイナと貴族の令息達との面会は、側にいるメリルのお陰もあってか何事も問題にはならずに、穏便に済まされた。
現在二人は応接用の部屋でソファーに座り、神官がいれたお茶を飲み休憩している。面会だけでも大人数を相手にするには結構な時間が掛かり、既に夕方になろうとしていた。
神官達は令息達を見送る為の対応等に追われて、部屋の中は二人だけになっている。
レイナの側面に座るメリルは、独特なお茶の飲み方をしている彼女を見て、今は面会で疲弊しているだろうと思い何も言わず、静かにレイナがお茶を飲み終わるのを待つのだった。
ティーカップのお茶を飲み終わり大きく息を吐くレイナに、改めてメリルは声を掛けた。
「本日はお疲れさまです、レイナ様。どなたか気になる方はいらっしゃいましたか?」
「皆さん結構なイケメンばかりだったんで名前もばっちりなんですけど、気になると言えば、そういう事もあるというか……」
そう言ってレイナは目を瞑って険しい顔をしながら腕を組んでうんうんと唸り出す。どうしたのだろうかとメリルは様子を見守っていると、彼女はカッと目を見開き前のめりになりながら、メリルの方に顔を向けるのだった。
「何が一番気になったかって言いますと、殆どの人達が私じゃ無くて、後ろにいたメリルさんの方を見てましたよ!」
「わ、私の方をですか? あれはレイナ様にきちんと情報をお伝えしろと、皆様目線で訴えられていたのでは……?」
「違いますよ! メリルさんにお家の事や何やらを全部把握して貰えて、嬉しそうに顔を赤くしていたんですよ!」
「えええっ!? そ、そんな……本日は殿下を除いても私よりも家柄が上の方もいらしたので、緊張してしまい、そこに気が付く余裕がございませんでした……」
レイナの世界の常識とこの世界の常識の違いで、面会中は常に問題が起きないように警戒していたメリル。
何がお互いにとっての失礼にあたる言葉に該当してしまうのかを意識してしまうと、令息達の顔や名前や出身地等は記憶している通りに説明は出来たが、顔を見せる本人の細かい部分には意識を向けられなかった。
「そんなに皆様は私の方を見られていたのですね……何だか申し訳ございません……」
「まさか王子だけじゃなくって、色んな人にも惚れられてるんですね。やっぱりメリルさんって本当は女性なんじゃないんですか?」
せめて面会中に彼等を注意出来ていればと、メリルは頭を抱え深くため息を吐いてしまう。貴族の家に産まれて来ている以上、メリルの性別に嘘偽りは無い。
嘘偽り無いのだが、それ以上にどう見ても女性にしか見えないのが問題であった。
レイナから見るメリルは男物の衣服を着ているのだが、今現在側面に座っているメリルは足をぴったりと閉じて、背丈も自分より少し背が高い程度で、服自体も身長には合わせていても体格に合っていないので、そういう部分でやはり全然似合ってはいなかった。
「うーん、やっぱりその格好全然似合ってませんよねメリルさん。奥の部屋に用意されてる私の服の方が似合いそうですよ?」
それを聞いてメリルは、身体をピクリと反応させる。そして昨日興奮したメイド達からの言葉を思い出して顔を赤くしてしまう。
「ど、どうしたんですかメリルさん? 急に顔が真っ赤ですよ!?」
「いえ……昨晩、お父様との会話を聞いていた家の使用人達からも、似たような事を言われてしまいまして……」
「ああ、そういう事ですか! 大丈夫ですよ、メリルさんなら女物のお洋服の方が今の姿より百倍似合いますから!」
「に、似合う似合わないの話ではございません……この大事な時期に、軽はずみに周囲を混乱させたくは無いのです私は……」
メリルは俯きながらそう呟く。膝の上に置かれた両手は握り締められていて、何かに耐えるかのように震えてしまっている。
このままだといずれ泣き出してしまいそうなメリルの雰囲気を察して、レイナは慌てて謝罪をするのだった。
レイナからの謝罪を受け、メリルも神子である彼女をこれ以上困らせる訳には行けないとどうにか持ち直す。
「申し訳ございません、レイナ様。従者として選ばれた私がご迷惑をお掛けしました」
「い、いや、私の方こそ、あれこれ考えて気を遣ってくれてるメリルさん相手に、失礼な事を言っちゃってごめんなさい」
二人はソファーに座りながら謝罪の言葉を掛け合う。
自分が来る前まで長い事アルフレッドの従者をしていたメリルが、自分から緊張していたと言う程なのだから、結構な気を遣わせてしまっていたとレイナは反省する。
「私、主神様って存在の事も、この世界の事も、メリルさん達の事もまだあんまりわかって無いのに、王子様と従者の特殊な関係性ってだけで一人で盛り上がってました」
まだ何も知らない事だらけではあるが、一度知ってしまった事は興味津々といった具合に、堂々と言ってのけるレイナに、メリルはどう反応すれば良いのか困惑する。
「それに、私とのお目見えだって言われても、知らない事だらけなのに男の人といきなりそういう関係になんて、なれませんし普通」
いくら顔が良くてもと、レイナは呟いてため息を吐く。その反応を見てメリルは、決して悪気は無かったのだとどうにかして国の判断を弁明しようとするが、後からどんな言葉を掛けようと彼女からして見れば、こちらの都合の良い事にしか聞こえないのではと、言い淀んでしまう。
「レイナ様のご意思を尊重せずに、申し訳ございません……」
「メリルさんが謝る必要なんて無いんですってばー! どっちかって言うと、目線がメリルさんに集中したお陰で私は助かりましたし」
レイナからお礼を言われるも、それに複雑な心境になるメリル。
レイナは先程から褒める目的であれこれ言ってみるのだが、肝心のメリルの反応はどれも微妙な物ばかりで、どうすれば喜んでもらえるのか思い切って尋ねる事にした。
「私としては褒めたつもりで言ってる事が、メリルさんには全然喜んで貰えなくて……どうすれば喜んでくれるんですか?」
「レイナ様……お気遣いありがとうございます。私も本当は大好きな両親によく似たこの姿を、素直に喜べたら良いのですが……」
困ったような表情で、胸を手で押さえるメリル。両親によく似ていると聞いてレイナは、どっちに似ているのか聞いてみる。
「あのー、よく似ているって、それってもしかしてお母さんの方だったり……?」
「はい、目元はお父様に似ていて、それ以外の殆どは幼い頃に亡くなったお母様に瓜二つで……家にも肖像画が飾ってあります」
「はぇー、メリルさんはお母さん似なんですねぇ。これだけ子供が美人だと、そのお母さんも相当モテたんでしょうね……」
レイナからの疑問に、メリルは父からもそう聞かされていると言って頷いた。そして面会での状況を思い出し、レイナは傍から見れば大層なモテ自慢だと思う所に、頭の中で主神も話に加わって来て何かに気が付いてハッとなる。
「そうじゃん、女性じゃないって言ってるメリルさんが男の人にモテたって、この世界だとそれだけで問題になるって事ですか……」
レイナの回答に、両手で顔を押さえて顔を赤くして頷くメリル。その姿や仕草は、完全に男性が思わずときめいてしまいそうになる物で、レイナも少し興奮してしまう。
そしてメリルは、自分の家の役割を話し始める。
「私の家は代々、貴族同士の揉め事が起きそうな時に、その間を仲裁して大事になる前に仲を良くさせ、和解させる役割を担っています」
その説明に、だから今日も色々考えてくれていたのだとレイナは感心し、メリルの話は続いていく。
「他の家に詳しいのも殿下の従者として、いずれ殿下が王位をお継ぎになるその時に、嘆願にお越しになる貴族の方々と円滑に話を進められるようにと、学んで来た物なんです」
「成程……メリルさんの見た目で自分の事を知ってくれてると思ったら、そりゃ免疫の無いお坊ちゃん育ちなら、嬉しくて勘違いしちゃうんだろうなぁ……」
メリルの家の事情を知り、そして今直面している問題事も知るレイナ。脳内でもこれだけ可愛らしい人なら特例でどうにか出来ないのかと、主神に訴えるも今の自分では色々と能力が足りないと返されてしまう。
脳内で主神とあれこれ会議し、特にこれだという案は出てこないのだが、どうにか考えた事を実行してみようするレイナ。
「うーん、メリルさん、どこか明確に女性では無いと言い切れる身体の部分とか無いんですか……?」
「ぶ、部分……? ですか? 私ではきちんとした判断が出来かねますので、具体的にどこが違うかレイナ様がご判断下さい」
そう言って、レイナに判断を委ねるメリル。自分で言ったものの、メリルの見た目は完全に女性そのものであり、どこが違うか指摘するには服を脱がして裸にしなければならないのではと焦るレイナ。
「そ、そうですねぇ……た、例えば肌の質感とかは、明確に男女の差が出やすい筈ですよ……って、柔らかーっ!? メリルさんのお肌、もっちもちしててヤバい……!」
どこを触って判断すれば良いのか悩んだレイナは、メリルの頬に手を触れるのだが、白く柔らかそうな見た目の肌は手触りがとても良く、滑らかな上にもちもちとしていた。
「ダメですよこれは……! 男の人がしていい肌の質感じゃないですよっ! 化粧水とか何使ってるんですか、逆にこっちが羨ましくなるレベルですよー!」
「ええっ!? だ、ダメなのですかっ!? エレノア様ともよく相談しておりまして、市井にも出回っているお手頃な価格の物で、必要最低限の手入れだけで済ませていたのですが……」
肌の手入れに関しては特にエレノアが黙ってはおらず、何度も話し合い貴族としては本当に最低限の手入れに留まっている。
エレノアとしてもメリルの現状には不満を持っているが、事情も事情なのでこれ以上の手入れも大変な事になると判断し、彼女も歯痒い思いをしていた。
肌の質感がダメだとなると、レイナはいよいよ肉体的な部分に言及しなければならなくなる。
外見の要素では、体格も髪質もとても男の要素がある物では無く、殆ど母親似という言葉の意味がそのままの意味で使われているのだと実感してしまう。
「あのー……メリルさん、その……非常に言いにくいんですが、お母さんに似ずに育った身体の部位とかって、無いんですか……?」
「お母様に似ずに育った部位ですか……そ、その、私も恥ずかしいのですが、流石にここは成長はしませんでしたが……」
そう言ってメリルが指をさした箇所は胸であった。
そうか、胸があったかとレイナは思うが、メリルの見た目ではただの貧乳の女の子ではと脳内でセルフツッコミをしてしまう。
そんなレイナの心境を知ってか知らずか、徐にメリルは自身の上着のボタンを外し脱ぎ始めてしまう。
「め、メリルさん!? な、何をしているんですか……?」
「な、何をって……私の胸を触って頂ければ、レイナ様も私が女性では無い事が判断出来るのではと思いまして……」
メリルは上着に腕を通したままシャツの胸元を晒して、そのままレイナに胸を差し出す。
顔を真っ赤にしてメリルは目を瞑っており、身体も微かに震えてもいるのだった。
「さ、さあ……お確かめ下さい……私の方も覚悟は出来ております」
その反応にレイナも困り、触るべきかどうすべきか一人でオロオロとしていると、部屋の外から男の声がし始める。
「レイナ嬢! 今回の件だが、何故俺だけ控えられたのか説明が欲しくてやって来た! ……って、め、メリルっ!?」
その声の主はアルフレッドであり、扉もノックせずに勢い良く部屋に入ってしまいこの状況を目撃してしまう。メリルも突然の乱入者に驚き、思わず悲鳴をあげてしまうのだった。