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レイナ、メリルと再会してますます気に入る




◆◇◆




 神官に連れられて、レイナを召喚した日と同じ道筋で神殿内の通路を歩き、メリルは彼女の為に用意された部屋の前まで辿り着く。


 後は一人で部屋の中に入って欲しいと言われ、メリルは扉をノックして声を掛けて中の様子を確認する。


「国王陛下の命により、本日神子様の従者となるべく挨拶に伺いました、メリルレイク・ウィスティアリアです。扉を開けても宜しいでしょうか?」


 しかし、返事は無く、再度確認をしても静かなままであり、不審に思った神官と共に部屋の中に入っていく。




「神子様ー、メリルレイク様をお連れして来たのですがいらっしゃらないのですかー? 神子様ー?」


 部屋の中は尚も静かで、メリルは神官と手分けしてレイナを探す事にする。


 神官が部屋の奥を見て来ると言って離れ、メリルは一人で今いる応接用の部屋で不審な所が無いか確認していると、背後から何者かが素早く接近して来る。


「今だーっ! メリルレイクさんに突撃ー! レイナ流抜き打ちチェーック!」


「ひゃぁああああっ!? ええぇっ!? み、神子様ぁ!? 一体何をなさるのですかぁ!」


 背後からのレイナによる急な突撃により、メリルはそのまま二人一緒に床に倒れ込みそうになる所を、目の前に備え付けられていたソファーの背もたれを咄嗟で両手で掴み、寸前の所で耐えるのだった。


 メリルの悲鳴によって何事かと神官が慌てて戻って来て、メリルの背にしがみつくレイナの姿を目撃する。


「だ、大丈夫ですかメリルレイク様!? 神子様も、一体何のおふざけを!?」


「あははー、ごめんなさーい。メリルレイクさんって本当に男性なのかなってずっと気になっちゃってて、私が突撃して倒れそうになるって事は実は女性なのでは?」


 自分よりも背の低い少女に押し倒されそうになったという事実に、メリルは思わず赤面した。


 そして、そのひ弱な部分でレイナに性別を誤認させる要因にもなり、慌てて抱き着く彼女の腕を振り解こうとする。


「い、いけません、神子様っ! 申し訳ございませんが、わ、私は本当に女性ではありませんので、腕をお放し下さい!」


「ホントなんですか? 触った感じ、腰とか腕とか細いですし、悲鳴も女の子みたいだし、長い髪もさらさらで、何か全体的に甘くていい匂いがするんですけど?」


「そうなのですか神子様? 実は私もメリルレイク様の事はずっと気になっていて、そこまで行くとやはり男性では無いのでは……?」


「そ、その辺りについては後でお話ししますからぁ! お願いですから、い、今は私から離れて下さい!」


 レイナに早く離れて欲しいと尚も頼み込んで、ようやくメリルは解放される。


 するとそこに別の神官達がやって来て、もうすぐ令息達と顔を合わせる時間が来るとレイナに告げた。




「えー? 私、今は男の人と話すよりも、メリルレイクさんの方が気になるんだけどなぁ」


 メリルから離れ、神官と話をするレイナの姿は、召喚の時に着ていた制服姿から変わって、フリルが装飾された白いワンピースを着ていた。


 黒い髪に黒い目で色白の肌をしたレイナにとても良く似合っていて、その不思議な色味は清楚で神秘的な雰囲気を引き立てている。


 見た事も無い髪と瞳の色もあってか、メリルは思わず彼女を見つめてしまう。


「どうかしましたか? メリルレイクさん?」


「えっ? ああ、いえ、神子様の髪と瞳の色がお召し物と合わさって、大変良く似合っておいでですから、つい見とれてしまいました」


「えっ? そ、そうかなぁ……メリルレイクさんみたいな美人な人から褒められちゃうと、なんだか男の人から褒められたって気が全然しないんですよねぇ」


 レイナの感想に、メリルはどう反応すれば良いのか戸惑ってしまう。神官もこれには苦笑いしながらも、メリルにもこれからやって来る令息達への対応を手伝って欲しいと頼まれる。




「神子様お一人ですと、初対面の方達の名前を覚えるのも一苦労で、私達もお貴族様の事にあまり詳しい訳ではございませんから、ここはメリルレイク様にご協力をと」


「はい、神子様達のそういった事情込みで国王陛下は私を従者に選ばれたのだと思います。ただ、婚約者の話は今日殿下から初めてお聞きしましたけど……」


「この世界って私くらいの歳の子だと、もう婚約者がいるんですねぇ、私まだ十五歳なのにそういう事も考えないといけないのかぁ……」


 自分よりも歳が若いレイナに、何も知らない世界にたった一人で無理矢理連れて来られたという事情を考え、メリルは思わずこういう話はもう少し時間を置いてからの方が良かったのではと、思い悩んでしまう。


 いくら神子の不安を解消する目的があるとはいえ、文化や常識が違うかもしれない者同士できちんとした愛情を育めるのか心配してしまう。


 酷く曖昧だった自身を、形容出来る概念が存在したという事実を経験してしまった身として、もう少しこの世界の知識や常識と、レイナがいた世界の知識や常識をすり合わせた方が、後で問題にならないので良いのではと、メリルはそう思わざるを得なかった。


 そんな事を考えていると、いつの間にかレイナが側にいるのに気が付き、そのままメリルは声を掛けられる。


「またどうしたんですか? メリルレイクさん? 婚約者を決めるのってこの国の決まり事とかじゃないんですか?」


「神子様……いえ、こちらの都合でお呼びしたというのに何だか一方的過ぎて、こういう事はもう少し時間をおいて、まずはお互いの世界の事を知るべきからなのではと、私はそう考えてしまって」


「あっ……うん、私も、ずっと神殿の中にいるだけだから、いまいち実感が湧いてこない所もぶっちゃけあるんだよね……」


 神子様と呼ばれ、丁重に扱われているレイナだが、まだ実感は殆ど無く、ぼんやりとした感覚でただ流されるように話を聞かされている状態だと、メリルに打ち明ける。


「私、自分の名前は天樹 玲奈だって、最初に言ったのに、皆、畏まっちゃって神子様神子様って呼ぶんですよね」


 どこか不貞腐れた顔をしながら俯くレイナがそう呟いたと思ったら、彼女は上目遣いになりメリルを見つめる。


「ねえ、メリルレイクさん、私の事名前で呼んでくれますか?」


 そしてレイナは、照れながらメリルに名前で呼んで欲しいのだと要求する。その姿はまるで子供といった印象を受けた。


 例えそんな印象の子であっても普通の神官の立場だと、恐れ多くてそう易々と名前で呼べないのだろうとメリルは察した。事実、神官が申し訳無さそうに自分に目を合わせてくる。


 事実、彼女を名前で呼んだのは、老人である高位神官と王族のアルフレッドの二人だけになる。ならば自分に続いて距離を縮められる人が出てくればと思い、メリルはレイナに柔らかく微笑む。


「わかりました、レイナ様。私は従者ですので敬称は外せませんが、公の場や人がいる所以外ではそうお呼びしますね。なので私の事もメリルと呼んで構いません」


 名前を呼ばれたレイナは顔を綻ばせて、その勢いでメリルの手を掴む。


「あ、ありがとうございます! えへへっ! じゃ、じゃあ私も、これからはメリルさんって呼びますね!」


 部屋の中はにこやかな空気になり神官もホッとしながら、面会の準備が終わっていく。




 レイナはソファーに座りながら、その後ろに立つメリルにこれからどうすれば良いのかを簡潔に尋ねる。


「ねえ、メリルさん、これから会う人達って貴族のごれいそく? って話なんですけど、顔も名前も知らないのに何を話せば良いのかな?」


「それは向こう側も同じですよレイナ様。ですから、家名やお名前や出身地のご説明は、必要に応じて私がその都度行います」


 そわそわして落ち着かないレイナに対して、少しでも彼女が安心できるようにとメリルは出来る限りのサポートを行うと伝える。


 それを聞いて、レイナは振り向いてメリルの顔を見上げた。


「ほぇー、メリルさんそういうのに詳しいんだー。それじゃあ、よろしくお願いしますね!」


 メリルに対して、信頼していますよといわんばかりの笑顔をレイナは向ける。


 メリルは、まだ出会ってそこまで日にちも交流も無かったのに、随分と打ち解けられた事を不思議に感じつつも、今は一緒に目の前の事に対応しようと、はいと返事をして微笑みで返す。


「本日はレイナ様へのお目見えで、大人数がお越しになりました。ですので、一人当たりのお時間も限られる筈です。余程気に入られたお方では無い限りは、顔とお名前だけでも憶えて頂ければと」


「王子みたいな美形ばかりだったら、顔はすぐにでも憶えられそうだけど、名前の方は努力します……私の住んでた国だと普段聞かない名前ばかりだから……」


 名前を覚えられるかと困り顔になるレイナに、そういえば先程の名前の言い方にも違いがあるとメリルは気が付く。その辺りも後で確認して行かなければなと考えていると、レイナがあっ、と不意に声を出す。


「いかがなさましたかレイナ様? まだ何かお困りの事がおありですか?」


「うん、そういえば王子の事なんですけど、ここにアルフレッド王子も来ているんですか? さっき婚約者の話を聞いたって言ってましたから気になって」


「ええ、はい。先程殿下がお知り合いの皆様と、何やらお話しになっていらっしゃる所に出会いましたから」


「ええーっ!? 何やってるんですか、あの王子!? メリルさんとエレノアさんが側にいるっていうのに、私に構ってる余裕なんてないでしょ!」


 アルフレッドもここに来ていると聞いて、レイナは驚く。


 彼女からして見れば、メリルとエレノアというとびっきりの美人が既に二人も側にいるというのに、何故ここに来ているのかと理解に悩む状況であった。


 しかも、アルフレッドはメリルの性別を知って尚の事特別扱いしているというのだから、自分に構う理由等無い筈だと考える。


 するとそこにレイナの頭の中に、主神の助言が聴こえるのだった。




 主神の声が聴こえた為に、それを聴くのに動きが固まるレイナ。どうしたのかとメリルは気になり、少し様子を見ていると、突然またレイナが動き出す。


「えっと、メリルさん、今さっき突然主神様が私に助言をしてきたみたいなんで、聞いて貰っても良いですか?」


「えっ!? 主神様からの助言ですか!? は、はい、内容によっては急いで神官達にも伝えるべきかと……!」


「いやー、それがですね、主神様曰く側にメリルさんがいるのだから、王子の話はあなたから聞けば良いから、王子はパスしなさいって……」


「は、はい? パスですか……? それは一体どのような意味で……?」


「主神様が王子がくっつくのはそこじゃないって、なんだかやけに怒ってるような感じだったんで、従った方が良いんじゃないんですか……?」


 レイナからの主神による助言があったという話を聞いて、メリルは戸惑いながらも神官達にそれを報告した。


 そして、高位神官の判断によって、急遽アルフレッドのみが面会を控える事が彼に直接伝えられ、一緒に待機していた生徒会の面々からも何をしたのかとツッコまれる形となり、アルフレッドは一人困惑するのであった。

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