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アルフレッド、メリルが神子の従者になった事を知る




◆◇◆




 ウィスティアリア侯爵家の当主、ジェームス・ウィスティアリアの子であるメリルレイクが、王子の従者を辞めるように命令されて、新しく神子の従者として選ばれた日の翌日。


 サンライト王国の第一王子アルフレッドは、今日も豪華な服に身を包み現在神子が住む場所を用意されてある神殿へと向かっていた。


 彼にはまだメリルが自分の従者を辞めさせられた事は知らされてはいない。その件とは別件で、神子であるレイナの件で複数名の貴族の子息達と一緒に神殿へと集めさせられていたのだった。


 アルフレッドは神殿の警備兵に案内され大広間へと連れられる。石造りで出来た神殿内は何処かひんやりとした印象を与え、王子である彼でさえも偶に緊張感を覚える事もあったりする。辺りを見渡せば学園に通う貴族の子息達が集まっており、最上級生になる自分と同じ歳の者もいれば下級生の者もいて、同級生から挨拶をされる以外は距離を置かれてしまっている。


 こんな時にメリルが側にいてくれればそれだけで華やかな気分になり、他愛の無い会話でも嫌な顔を一つもせずに付き合ってくれただろう。メリルに一声掛けようともっと色んな生徒が挨拶に来ていただろうなとふと考えていると、自身の名前を呼ぶ聞きなれた男達の声が聞こえる。




「おーい、アル、アルじゃないか! なんだ、王子であるお前もここに呼ばれているのか」


 この国の騎士服を着た大柄で筋肉質な体型の男が、気さくにアルフレッドをアルと呼んで近付いて来る。


「なんだとは何だ、ダグラス。ここに呼ばれたのはレイナ嬢の件だろう。俺以外の生徒会のお前達も来ていたのか」


 アルフレッドはそう言って返事をするのだが、彼等の間に漂う空気は何処か刺々しい。


「ええ、何処かの王子様が婚約者を決めかねているので、我々も未だ手付かずですからね」


 大男の横にいるピシッとした身なりの青年が、続けてアルフレッドに話し掛ける。


「またその話かサイモン……エレノアや他の令嬢達には申し訳無いとは思ってはいるが、俺が婚約者を決めていなければお前達に何の影響があるというのだ」


 アルフレッドに声を掛けて来た二人の青年。王族である彼に友人のような距離感で接して来たのだが、その雰囲気はどういう訳かピリピリとしていた。


 ダグラスと呼ばれた方は、濃いこげ茶色の髪に同じ色の目をした長身に筋肉質の大男で、名をダグラス・グラントという。


 その隣にいるサイモンと呼ばれた、暗い緑髪に青緑色の目で眼鏡を掛けたアルフレッドと同じ位の背の男は、名をサイモン・バートレットといい、共にグラント家とバートレット家の嫡男である。


 今は彼等に興味が無いとアルフレッドが二人を軽くあしらって離れようとすると、またもや彼に声を掛ける男達の声がした。


「いや、正直な話、俺達はアルが誰を婚約者にするのかよりも、お前がいつも独占しているメリルの方が気になっている」


 貴族用に仕立てられた洋服の上に、着込んで使い馴染んだ魔法使いのローブを羽織った青年が、今度はメリルについて話し出す。


「ほう、随分と露骨に話してくれるじゃないかハリス……それを聞いたら尚の事メリルを手放せないな……!」


 令嬢達の視線が無いこの貴族の子息だらけの環境が、より彼等の本音をぶつけ合う絶好の機会なのだろう、普段では言えない密かに胸に秘めている事も平気で言い合えるのだった。


「そのメリルさんですが、今日は殿下のお側には付いていないのですね。時には姉上よりも優先順位が高いというのに」


 その姉に影響されたであろう上品な装いでアルフレッドに声を掛けた少年は、彼等よりも少し年下で背も低めながらも、普段姉やメリルには見せない態度を出している。


「ナサニエル、お前も今日は随分と強気だな。二人の前では可愛げのある弟を演じているというのに、俺には見せてくれない訳か」


 ハリスと呼ばれた、魔法使いの装いをした肩の辺りまで届く濃い青髪に紫色の目をした青年は、名をハリス・ブルーヘンドという。


 その横にいるナサニエルと呼ばれた、上品な服装の濃い銀髪に鮮やかな青い目の少年は、名をナサニエル・ブライトウェルといい、エレノアの実の弟でもあり、共にブルーヘンド家とブライトウェル家の嫡男でもある。




 彼等もダグラス達同様、アルフレッドと近しい関係である。普段からこんなに語気を強くして話し合う関係では無いのだが、今は時期も時期であり、そしてなんという事か全員がメリルに心惹かれてしまっているのであった。


 数か月前までは、密かに互いが互いを牽制し合いメリルの好感度を稼ごうとさりげなく良い格好をしていただけであったのだが、アルフレッドが婚約者を選ばなければならない最後の進級が迫るにつれて、その過激さは増し始めた。


 今はどうにかしてアルフレッドからメリルを遠ざける方法を画策する為に、一時的に四人が協力してアルフレッドのみを狙っていた。そんな彼等だからか、とある違和感を覚えるには少し時間が掛かった。


「ん? おい、ナサニエル、そう言えばここにメリルがいないのかとお前はそう言ったが、この場は確か神子様の好みの男を見つける為の場だと、俺は親父からそう聞かされていたんだが?」


 違和感をまず指摘したのはダグラスだった。神子の好みの男性を見つける為の場なのだから、男性とかけ離れた容姿をしたメリルが呼ばれていないのは当然ではとの考えだった。


「ダグラスにしては珍しく冴えてますね。殿下も普段からメリルを女性扱いしていますし、神子様も驚いていた程ですから、逆にここに呼ばれる方がおかしいのでは?」


 サイモンも別室で聞かされた召喚後の話の内容を思い返し、神子であるレイナは当初メリルの性別を勘違いしていた筈だ。であるならば、自分達が呼ばれた時点で神子の嗜好は正常であり、メリルが呼ばれる理由が無いと推測する。


「成程、メリルの容姿は神子様も男装だと勘違いする程だったな。そうなると、ある意味神子様お墨付きであいつは女性だと言っているような物だ」


 何かを企む顔をするハリス。彼は魔法の扱いに関しては学園内で右に出る者はいない程の実力者でもある。お墨付きを得たのなら強気に出られると確信した。


「そういう訳ですか……今ここにメリルさんがいない事が、僕達と違う存在だという何よりの証明になりますね! 神子様がそう扱うのなら、僕達もそれに従う義務があります!」


 興奮した様子で、今後のメリルの扱いを展望するナサニエル。レイナそっちのけで話を進める彼等に対して、アルフレッドが注意をしようとした時、そんな彼等が意図していなかった聞き馴染みのある、柔らかく温かみのある澄んだ声が聞こえて来るのだった。




「殿下に皆様方もこちらにいらしていたのですか!? 他にも様々な方達がいらっしゃいますけれど、これは一体何の集まりなのでしょうか?」


 その声のする方に皆が顔を向けると、そこには今まで話をしていたメリルの姿があった。


 長い金髪を三つ編みに纏め周囲を確認する度にふわりと靡かせ、着ている服自体は自分達と似たような格好ではあるが、長いまつ毛に大きく丸く開いた穏やかな淡い薄紫の目に、白く柔らかそうな肌に血色の良い頬や、細く小柄な体格等、全く男性には見えないであろう異質の存在がアルフレッド達の側まで近づいて来るのだった。


 アルフレッドはこの場にメリルが来た事に驚く、そしてそれ以上にダグラス達は動揺していた。


 先程の話は聞かれていないだろうかと慌てふためき、どうしてここにいるのかを落ち着かない自分達の代わりに尋ねてくれと彼等はアルフレッドに目線を向ける。


「め、メリル!? お前がどうしてここにいるのだ。もしかして、レイナ嬢の件なのか……?」


「は、はい、一応神子様に関する事でこちらに呼ばれたのですが、殿下達は一体何の件でいらしているのですか?」


 レイナの件で来たのだと話すメリルに、アルフレッドの後ろにいる男達は更に動揺する。彼等は青ざめた顔で一体どういう事だと固まってひそひそと話をし始めた。アルフレッドもメリルに限ってまさかここに来る筈は無いだろうと考えていたので、焦りを隠しつつ質問を続ける。


「お、俺達は、神子であるレイナ嬢の将来の為に、婚約者にしたい程に気に入る男を見つける為に集められたのだが、も、もしかしてメリルもなのか……?」


 この場にいる貴族の子息達は、国の命令で集められた、まだ明確に婚約者が決まっていない者達である。それらの男達をレイナと対面させて、誰か気にいる者がいれば早めに縁を繋いでおこうという神殿と国の判断であった。


 この条件には一応ではあるがメリルも当て嵌まっており、レイナの初対面での反応は感想はどうであれ上々であったとアルフレッドは思い返す。万が一の可能性を考えてしまい、彼は冷や汗を流して息を呑む。


 国の待遇で言えば、神子は王子よりもその扱いを優遇される事が多い。主神の声をより正確に聴けるというレイナであれば、今後何をされても不思議ではない。


 そんなアルフレッドの不安を他所に、メリルはどういう事かと首を傾げ困惑するのだった。


「ええと、神子様の婚約者というのは初耳なのですが……? 私がこちらに呼ばれたのはそれとは違います」


「ほ、本当か!? で、では、一体、何のために呼ばれたというのだ……?」


 婚約者候補として呼ばれた訳では無いときっぱりと否定するメリル。それを聞いて、ダグラス達も再びメリルに顔を向け始めた。その勢いに驚きつつも、メリルはここに来た理由を話す。


「もしかして殿下は何も聞かされていないのですか? 私は本日から、国王陛下や皆様のお家のご当主様達からの命令で、神子様の従者になるんです」


 メリルからの説明を聞いて、アルフレッドは固まってしまった。そんな彼を他所にダグラス達はやっと、アルフレッドの従者からメリルを引きはがせたのだとはしゃいでいた。


「な、何故だ!? 何故メリルが俺の従者を辞めるのだ!? ち、父上達は何を考えているっ!」


「何故も何も……私が殿下のお側にいると、殿下はずっと私に構ってばかりで婚約者を決めようとなさらないじゃないですか……!」


 顔を赤くしてそう話すメリルに、アルフレッドは硬直から解けた身体を再び強張らせてしまう。そして、この機会にダグラス達にも話す事があると、メリルは彼等にも顔を向ける。


「そ、それと、今回の件は、私のお父さ……ち、父上にも相談に乗って貰いましたからっ! 私の話を聞いて腹を括ったと仰って下さったので、皆様もそういう事だとお考え下さい!」


 一方的に言い寄られて来られても困るのだと、わざわざ父親の呼び方を改めてまでメリルはそうダグラス達に警告する。


 それは彼等の家に睨まれているウィスティアリア家が、当主自ら反撃する気が有るのだと伝えていた。メリルに一方的に惹かれているのは彼等なので、ダグラス達も固まってしまった。


 そして神官からレイナの部屋に来るようにと案内され、メリルは一人彼等の前を後にする。

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