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レイナ、女顔従者と王子様の関係性に突如興奮する


 レイナが辺りを見渡し何かを発見したのを、アルフレッドも感じ取っていた。彼女が視線を向けている先に自分も目を向けて、しまったといった顔になる。


「あっ! いたいたっ! ねえ、エレノアさん! あそこにいるエレノアさんと一緒に私に話し掛けて来たあの人って一体どういう人なんですか?」


「うふふ、あの子は私達の共通の幼馴染で、今は殿下の従者を務めているのですわ」


「そうなんですか? 確か、メリルさんでしたっけ? 私、あの人ともお話がしたいです!」


 様々な疑問を解消するきっかけを得たレイナにとって、今一番の疑問と言えるのはメリルの存在であった。


 レイナのはしゃぐ声は部屋の隅にある出入り口にいるメリルにも届き、名前を呼ばれた当人は困惑しながら遠くの方からエレノアに視線を向けていて、どうするべきかの判断を仰いでいるようだった。


「おいっ! メリルは俺の従者だぞ! 最初にレイナ嬢を怖がらせない為に必要だと言ったからやむなく呼んだだけで、それが大丈夫になった今は呼ばなくて良いだろ!」


「あら殿下、興味をお持ちなのは神子様本人ですのよ? それでしたら、きちんとご挨拶しなければ主神様にも失礼に当たりませんこと?」


 エレノアはそう言って、彼女に親しい存在にのみに伝わる表情をしながらアルフレッドを説き伏せてしまう。


 そう言われてしまえば言い返す言葉が無く、思わず唸りそうになっているアルフレッドを他所に、面白い事になりそうだと思いながら、エレノアはメリルにこちらに来るように手招きをして呼ぶのであった。


 自身の主であるアルフレッドの様子を見て、何だか申し訳無さそうな表情をしながらメリルがやって来て、エレノアの座るソファーの側に立ち恐る恐る彼女に問い掛ける。


「私がこの場にいてよろしいのでしょうかエレノア様……? この部屋に来る前に最初にご指摘されたのはエレノア様ご本人でしたけれど……?」


「ふふ、あなたなら特別に良いと思うわよメリル? 殿下も普段からあなたを特別視しておりますし、そういう風に扱っているのも殿下自身なのですから」


「わ、私としてはそれはそろそろ控えて頂きたいのですが……もうすぐ殿下にとっても大事な時期が控えておりますのに、私はそれが不安で……」


 エレノアに話し掛けたと思ったら、その返答で突然頬を染めて俯いてしまうメリル。その姿はどう見ても何かを恥じらう少女としか思えないのだが、着ている服装のせいでレイナはいまいちどう扱って良いのかわからないでいる。


 レイナとしては、そろそろ何故メリルがそんな格好でいるのかを問いたかったのであるが、それを慌てて大きく咳払いしたアルフレッドによって止められてしまう。


「れ、レイナ嬢! こちらが俺の従者であるメリルだ! さあ、メリル、挨拶だけしたら下がって良いぞ」


「あ、はい、殿下。折角神子様にお呼び頂きましたのに、関係の無い話でご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。私の名前はメリルレイク・ウィスティアリアと申します。殿下とエレノア様とは長い付き合いでお二方とは普段から仲良くして頂いております」


 そう言って丁寧に頭を下げるメリル。その動きに思わずレイナもどうもと頭を下げてしまう。


 挨拶が済み、急いでメリルを下げさせようとするアルフレッドに、遂にエレノアが彼を一睨みして有無を言わさず黙らせてしまう。


「お待ちなさい殿下、神子様が興味をお持ちだとわたくし言いましたわよね? それに、今後とも神子様と密接に関わるのでしたなら遅かれ早かれどの道、メリルの事は知られてしまいますわよ?」


「だ、だからだっ! いいか、メリルは俺の従者なんだぞ……! 例え父上や上の者達がなんと言おうと、俺はまだ納得していないんだ……!」




 今までその美男子っぷりを存分に発揮していたアルフレッドだったが、従者の事になると声を荒げ顔を赤くして何かに必死になり、途端に様子がおかしくなる事に流石に気が付くレイナ。


 何が何だかわからないままなのだが、自分達に構わずメリルと話しなさいと薦めるエレノアに、レイナはようやく疑問を尋ねる機会を得るのだった。


「えっと、メリルレイクさんって言うんですね。あなたの事になると何だかアルフレッド王子の様子が妙ですよね? ずっと気になってる事があるんですけど聞いても良いですか?」


「はい、私に関する事でしたら何でも、とは言いたいのですが……あまり言いにくい事もございますから、どうか優しくして頂けたら……」


 頬を赤らめ、困り顔でメリルはアルフレッドを見つめる。その表情にウッと唸ってしまい何も言えなくなってしまうアルフレッド。エレノアも何も知らないレイナの事を思いながら、彼をじっと睨むようにして見つめている。


 三人はどういう関係なのかとあれこれ考えつつも、レイナは簡潔に尋ねるのだった。


「メリルレイクさんって、凄い綺麗でエレノアさんと同じ位美人なのに、どうしてそんな格好なんですか? 王子の従者になるには男装する必要があるんですか?」


 自身の感想を率直に述べるレイナ。その質問を聞いて、メリルは赤くした顔を更に赤くしてしまい、アルフレッドは両手で頭を抱え、エレノアは何も言わずレイナに優しく微笑むのであった。


「え、えっと……神子様……その事ですが……私のこの格好なのですが、神子様には不思議に見えていましても、何と言いますか……私には、その、これが正しい服装でして……」


 いまいち要領を得ないメリルの回答に、レイナは訝しんでしまう。その視線にメリルは思わずエレノアの後ろに回り、顔を俯かせエレノアの座るソファーの背もたれ部分を両手で掴んでしまっている。


「じゅ、従者だから、この格好をしている訳では無いと、言いますか……だ、男装という訳でも無いんです……そ、その、私は、神子様やエレノア様とは違う訳で……」


「要するに、メリルはこんな見た目ですけど()()なんです神子様。そして、殿下はそんなメリルにメロメロで首ったけで、裏では女性扱いして可愛がって愉しんで悦に入ってるという訳ですわよ。うふふふ」


 自分の大事な部分なだけに、はっきりと言えずにあれこれはぐらかすように説明しているメリルに、しびれを切らしたエレノアが代わりに二人の関係を打ち明けるのであった。その表情は彼等を糾弾するような雰囲気では無く、レイナに対して何かを確信した上での期待を込めた物であった。


「ほぇ……メリルさんが……だん、せい……? えっ? えっ!? ええええええーっ!?」


 レイナはその事実に思わずソファーから立ち上がってしまう。そして、驚いた顔でメリルとアルフレッドを交互に見るのであった。


「こんなに綺麗なメリルさんが、実は男の人で……アルフレッド王子は、そうと知って普段から女の人みたいにメリルさんを扱ってて……? それってつまり……? つまり……!」


 レイナは既に彼等を交互に見る事を止めて、驚愕の表情をしたままでぶつぶつと独り言を言い始めていた。


 その事実を知られたアルフレッドは、顔を青ざめさせて完全に俯いてしまっている。初めて会う神子に自身の嗜好を暴露されたのだ。


 王族でありながら女顔の同性相手にそんな事をしているなんて、もしこれで神子に王族としての務めを果たせない愚か者扱いされて嫌われてしまえば、国そのものの存続すら危ういと考える。


 メリルもなんて事をいきなり言い出したのだとエレノアを見て、感情を言葉に出せないまま震えながら必死に口を閉じている。その顔は羞恥心で完全に真っ赤になり、目には涙すら浮かべてしまっている。


 これからどうなってしまうのかと、不安と心配で今にも倒れてしまいそうな感情のメリルを他所に、エレノアは不敵な笑みを浮かべてじっとしている。


 しかし、そんな二人の不安とは間反対に、レイナは途端に目を輝かせてはしゃぎだした。


「つまり、メリルさんはリアル男の娘って事じゃないですかぁーっ! すっごーい! この世界って美男美女だけじゃなくて天然の男の娘もいるんですねぇ! しかも、王子がそれに惚れこんでて、本気で女の子にしようとしてるとか……! ヤバいっ……! 鼻血が出そう……っ!」


 レイナの突然の興奮した騒ぎ方に、アルフレッドとメリルは呆気に取られてしまう。そしてエレノアは、彼女が想像以上の逸材だとして我慢の限界を超えて笑い出すのであった。

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