アルフレッド、事情を確認しに行って慌てる
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異世界から召喚された神子であるレイナと面会し、婚約者にしたい男がいないかを見つけるべく、神官に代わる代わるに名前を呼ばれ、この場に集められた貴族の子息達数名ずつが神殿内の大広間から待合所へと向っていく。
そしてそれを壁にもたれながら腕を組んで眺めるアルフレッドは、この面会が早く終われと不機嫌を顔に出しながら、高位神官の老人に言われた事を考え一人呟くのだった。
「……何なんだ、全く……何故俺だけレイナ嬢と会っては駄目なのだ……?」
詳しい理由まではわからず、それは徐々に疑問から苛立ちへと変わりつつあった。なので、こうしてアルフレッドは全員の面会が終わってから直接問いただそうと、ひたすら待つ事にした。
「なあ、お前どうだった? 神子様との面会?」
「神子様も十分可愛らしいお方だったが、それよりも……彼女の後ろにいた……」
「ああ、メリルレイク様だろ……? やっぱお前も知ってて貰えていたのか」
大広間に戻って来た子息達が、顔を赤らめ浮かれた様子で面会を振り返っていた。その会話に出て来る良く知る人物の名前に、アルフレッドも自然と反応して彼等に耳を傾ける。
「俺達みたいな地方からの出の者の事は、あまり知らないのだろうと思っていたが、凄かったなぁ……」
「ああ、土地柄だけでなく、特産物や数代前の功績にまで触れて下さるなんて、跡目を継がない身でも込み上げて来る物があった……」
「兄貴も、婚約者と互いの家の事を覚えていくのに数年は掛かったってぼやいてたなぁ……」
「あの容姿でそこまでされてしまうと、俺達みたいな者はコロッと簡単にいっちまいそうになるよ」
違いないと彼等は笑い合い、メリルにときめかない方が無理だと言ってその場から遠ざかっていく。
長年自分の従者を務めていたメリルを褒められて、アルフレッドは誇らしく感じると共に、相当な数の者達が惚れている事実に焦りも覚えていた。
最初の内は軽い気持ちであった。父親である国王が、そしてその側近達がまずはそのやんちゃな性格を落ち着かせよと、従者として自分にあてがった存在がメリルとの出会いになる。
ただ待つだけでは退屈なので、アルフレッドは自分の人生を振り返っていく事にした。
十年程前、アルフレッドは城の中で退屈と孤独を感じていた。子供は自分一人で、両親は愛情を向けてくれるが、同じ目線に立って同じ体験を共有出来る存在を欲していた。
そんな不満は行動に現れ、母に弟妹が欲しいと抱き着き甘え、母の使用人のメイド達にもちょっかいをかけるようになる。
このままでは数年経って本格的に婚約者を探し始める時に、令嬢への接し方にも悪影響が出るのではと、城の大人達は頭を抱えていた。
そうして、アルフレッドの話し相手になる従者を探す事になった。しかし、似た気質を持った者同士では彼を諌める前に、奔放さに感化されてしまうのではと悩みに悩み抜いて、とある家の子供に辿り着く。
その子こそ、ウィスティアリア家に産まれ育った、メリルレイクであった。
その当時から母親に瓜二つと評されていたメリルは、見た目はまるで女の子であり、性格も容姿に似合う穏やかな子である。
アルフレッドは最初、メリルに女の子かと尋ねると顔を赤くしてそうでは無いと丁寧な返事で返され、ならば男なのかと無理矢理手を取って庭に連れて行き虫を捕まえてみせると、腰を抜かして泣き始めるので戸惑ってしまう。
そんなメリルの存在はアルフレッドに効果てきめんで、みるみる内にやんちゃな性格は落ち着き始め、メリルが嫌がる事はしないようにし始めた。
しかし幾ら容姿が可愛くても、男相手に女の子に向ける感情を持つのはおかしいのではと、偶にアルフレッドはそう思う時もあったのだが、少ししてエレノアとも出会い、そこでおかしいのは自分では無い事に気が付く。
楽しそうにエレノアと話すメリルの姿は、アルフレッドからして見れば女の子同士の会話にしか見えず、メリルは自分とは全く違う存在なのだと感じるようになる。
俗に言う一目惚れという状態で、そしてそれが初恋でもあったアルフレッドは、どうすればメリルに自分を気に入って貰えるかばかりを考え始めた。
更に少ししてダグラス達とも出会い、ダグラスから女のような従者に庇われるひ弱王子と揶揄われれば、すぐさま身体を鍛えるようになり、メリルの分まで逞しく強く育った。
サイモンからは、勉学に励まず女と仲良くする事しか能が無い色ボケ王子と罵られ、メリルと共に国の歴史から学び始め、今では学園でも上位五位以内の成績を収めている。
ハリスからは、メリルは魔法の才能を持っているが王子にはそれがないのかと鼻で笑われて、自身の魔法の才能と真剣に向き合い、身体強化の魔法を扱えるようになった。
ナサニエルからは、自身の姉と吊り合う品性を持つメリルと比べて品性が足りないと睨まれて、徹底したマナーを身に着け、王族として恥ずかしくない品性と社交性を身に着けた。
今ではアルフレッドは逞しく立派な王子様となった。そして、従者として常に側で支えてくれたメリルも、どういう訳か女性と見間違える容姿はそのままに美しく綺麗に育っていくのだった。
そんなメリルを見ると、正にときめかない方が無理だという状態であり、今思えば自分に突っかかって来た頃からダグラス達もメリルに気が有ったのでは、と思うアルフレッドである。
自分の人生を振り返るつもりが、いつの間にかメリルとの思い出を振り返るばかりであった。
それ位自分の人生はメリルとの人生であり、今のメリルは俺が育てたのだと、浮かれる周囲に向かって叫びそうになったアルフレッド。
過去を振り返り改めて意識してしまうと、悶々とした感情は更に昂ってしまいそれが顔に現れはじめて来て、面会を終えたダグラス達ですら今の彼に揶揄いに行くのを躊躇わせてしまうのだった。
浮かれていた周囲も、そんなアルフレッドの顔を見て途端に顔を青くして距離を取っていく。そうして時刻は夕方になっていく。
面会は終わり、夕方になる。神官達も神殿から退出する子息達の相手で忙しくなり、アルフレッドが何をしようとしても注意が向く事は無かった。
普段は王族としてのオーラを十二分に振りまいて貴族達の主役を張っているが、今日は元から壁に張り付くようにじっとして途中から触れられない表情でいた為か、誰とも目が合う事は無く自然と空気と化していた。
そうなってしまえばコソコソと動いても気が付く者はおらず、容易にレイナのいる部屋の前まで辿り着く事が出来たのである。
「ここにレイナ嬢がいるのだな……! 今日は一体どういうつもりかきっちりと説明して貰わねば、城へ帰るに帰れない!」
このまま城に帰れば両親達から今回の件について尋ねられるだろう。そして、会う事すら叶わなかったと知られれば神子に何をしたのかと、妙な顔を向けられてしまう。
更に言えば面会だけでは無く、自身の従者だったメリルの件についても話をしたいとも思っていた。
メリル本人から早く婚約者を見つけろと、忠告されて固まってしまったが、令嬢達の中でメリルと同じ位の器量や気立てを持っている者など、それこそエレノア位しかいないとアルフレッドは思っている。
色々な感情が優先してしまい、つい扉をノックして確認する余裕すら無かったアルフレッドは、彼らしからぬ些細な失敗をしながら、怒鳴り込むように部屋の扉を開けてしまう。
「レイナ嬢! 今回の件だが、何故俺だけ控えられたのか説明が欲しくてやって来た! ……って、め、メリルっ!?」
部屋の中に入ったアルフレッドが見た光景は、服の上着を半分程脱ぎ、シャツの胸元をレイナに向けて差し出しているメリルと、今まさにそんなメリルの胸を触ろうと手を出していたレイナの姿だった。
「えっ……? あっ、で、殿下……!? ひ、ひあぁ……っ!? きゃあああああっ!」
アルフレッドの乱入により、顔を完全に真っ赤にして悲鳴をあげるメリル。恥ずかしさで顔はアルフレッドと反対の方に向き、腕で胸元を隠しつつ身体も彼に背を向けてしまっている。
アルフレッドも二人が何をしようとしていたのかを尋ねたい所なのだが、見てはいけない物を見てしまったという罪悪感がそれを上回ってしまい、つい慌てて顔を逸らしてしまった。
レイナもレイナで、乱入者に一瞬驚きつつも、この後の展開に淡い期待をしてしまっている。そして、メリルの素の反応を見て、ますます性別が判断出来なくなってしまった。
「きゃーって、メリルさん! そんな可愛い悲鳴出すとか、女性でも滅多に出来ませんよ!? やっぱりどっちなんですか! 判別のしようがないじゃないですかー!」
「は、判別もなにも、初めてお会いした時に私の事はエレノア様が全部仰りましたよっ! そ、それが全てです! 全てですからぁ……!」
思わず出してしまった悲鳴を指摘され恥ずかしさのあまり、レイナに対して震えた声でそう答えるメリル。
アルフレッドに見えないように急いで服を戻すとすぐさま立ち上がり、そのまま急いで彼に近付いて部屋から出そうとし始める。
「で、殿下もっ! こ、ここは神子様であるレイナ様のお部屋でございます! 一国の王子ともあろうお方が、許可も確認も無しにいきなり女性のお部屋に入って来られるだなんて、いけません!」
アルフレッドを両手で押して部屋から出そうとするメリル。しかし、二人は頭一つ分位の身長差があり、体格に至っては本当に同じ性別同士なのかと思える程に、レイナが見るメリルは華奢であった。
全力で押されていてもアルフレッドは全く動く気配は無く、メリルは息が上がって疲れてしまい彼から離れてしまう。
「……レイナ嬢の部屋にノックも無しに入って来たのは申し訳ない。だが、メリル、お前もお前で一体何をしていたんだ……?」
アルフレッドはメリルの突然の行動が可愛らしかった為か、しばらくそれを眺めた後、疲れて離れてからようやく尋ねる事にした。
尋ねられたメリルは身体をぴくんと反応させて、顔を赤くして胸元を両手で押さえながら一歩後ずさってしまう。その顔はとうとう限界を迎えてしまったのか、目元には涙すら浮かんでしまっている。
「い、言えません……! そんな事、私、言えません……お許し下さい殿下ぁ……」
「さっきからメリルさんの反応が、ただただ可愛いとしか言えませんよ王子」
「それは俺も、もう何年もずっと思ってる事だ」
「これで女性じゃないなんて、どうなってるんですかこの世界?」
「婚約出来ないのならせめて従者としていつまでも側にいて欲しかったが、どうしてこうなったんだレイナ嬢……」
改めて、今日一日の悶々とした感情を込めた目線でレイナを睨むアルフレッド。それに慌ててレイナが、自分のせいじゃ無いと返していく。
「わ、私のせいですかっ!? メリルさんを私の従者にしたのも、王子と面会しなかったのも、主神様がそうしなさいって言ってた事ですからね!」
レイナから全て主神の言葉がそうした方が良いのだと言われ、アルフレッドは驚く。そして、メリルの悲鳴を聞いてやって来た神官達に見つかり、彼は自分が乗って来た馬車まで連行されていくのだった。
アルフレッドは連れて行かれる間際に、メリルも一緒に自分の馬車に乗って家に帰らないかと誘うのだが、主神はそこまでしろとは言っていないとレイナに一蹴され、少しして落ち着きを取り戻したメリルも自分の家へと帰っていった。




