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59. 作戦会議の夜①


 空港から自宅の最寄り駅まで一緒に帰ってきて、ひとまず、各自の自宅に戻った。

 琉生は軽くシャワーを浴び、泊まりの荷物を用意する。

 普段から、琉生と想太は互いの家を行き来して泊まることも多いので、いってらっしゃいと、親もあっさり彼を送り出してくれた。はじめのうちは、お互いの家を行き来するたびに手土産を持たされたりもしたけど、今は、もうそんなこともない。お互い必要以上には気を遣わない。それくらい家族ぐるみで親しくなっている。

 

 途中コンビニに寄って、想太リクエストのおやつを買い込み、彼の家に向かう。

 おやつは、作戦会議のときの夜食だ。想太曰く、「頭使うときは、糖分いるで」ということなので、甘いものもいろいろ買った。


 想太の家に着くと、妹尾 圭が満面の笑顔でドアを開けてくれた。

 この人はいつ会っても、あふれんばかりの笑顔だ。

「こんばんは」

「こんばんは。いらっしゃい。想ちゃん、今シャワー中なんだ。もう出てくると思うけど」

「そうですか。すみません。おじゃまします」

 頭を下げる琉生に、ほんわかした笑顔で、圭が言う。

「全然、おじゃまじゃないよ~。作戦会議なんだってね。今夜はね、台本読んでるから、けっこう遅くまで起きてるつもり。でも全然切羽詰まってるわけじゃないから、何か相談したいことや聞きたいことあったら、いつでも声かけて」

「はい。ありがとうございます! そのときはぜひお願いします。……あの、この間のドラマ、すっごくよかったです。家中みんなでハマって、めちゃくちゃリピートしまくってます」

 琉生は夢中で話し出す。

「ほんと? 嬉しいな。実は自分でもすごく気に入ってる作品だから、そう言ってもらえると、がんばったかいがあるよ」


 圭が大きく口を開いて元気に笑っている。白く整った歯並びが美しい。

 憧れの人の笑顔だ。

 一瞬、ぼうっとしてしまう。大好きで、心惹かれる。

 そのせいか、琉生のほほ笑み方は、どうやら、圭によく似ているらしい。

 とくに、くちびるの両端をそっとあげて目元をなごませる、静かなほほ笑みは、「めっちゃ父ちゃんに似てる」と想太にも言われたことがある。嬉しいけれど、影響されすぎはどうなのか、と思わないでもない。


 今、圭は大きな茶色の瞳を輝かせて、朗らかに笑っている。こんな表情もすごくいい。

 事務所の大先輩でもあり、憧れの人でもある彼と、こんな間近で話せる関係になれたことが、夢のように思える。

 琉生がその存在を知ったときから今に至るまで、圭は変わらず魅力的だ。そして、年を経るごとにさらに磨きがかかっている。


 どうやったら、こんなふうに美しく年を重ねられるのか。

 自分の父親も年を重ねる中で、俳優として、より渋みや魅力を増しているが、俳優とアイドルの違いもあってか、圭とはずいぶん雰囲気が違う。

 自分は、どんなふうに年を重ねていくべきか。

 琉生は、時々考える。

 アイドルらしく、いつまでも、若々しく、可愛く、カッコよく、元気で?

 大人の男性らしい、渋みや凜々しさ、頼もしい落ち着きをもって?

 


「お待たせ~。琉生」

 想太が浴室の方から、タオルで髪を拭きながら現れた。額に前髪がはりついている。

「想ちゃん、ちゃんと髪乾かしといで。琉生くんは、まだしばらくオレと話してるから。慌てなくていいよ」

 圭が想太に笑いかける。

「ん。わかった~」

「化粧水とかはつけた?」

 言いながら、圭が想太のほっぺたをそっとつつく。

「あ。まだ~」

「いそげいそげ。お肌乾燥するよ」

「はあい」


 幼い子みたいに素直に返事をしている想太が可愛らしい。

 洗面所にUターンしていく想太を見送りながら、

「なんか素直で、可愛い……」

 琉生は思わず笑ってしまう。

「ふふ。そうだね。想ちゃんは可愛い、ずっとね。こんなちっちゃな頃から……」

 初めて出会ったとき、このくらいの背の高さで、などと手で示しながら、圭が話す。

「寝転がってると、小さな子犬みたいで、ぎゅう~ってしたくなるくらい可愛くて。よく抱っこして、オレも隣りに寝転がってさ」

 目を細めて話す圭の表情から、どれほど想太のことを愛しいと思っているのかが伝わってくる。

「それが、今では、オレを追い越すくらい大きくなって。でも、性格は昔のまんまだ」

 琉生もうなずく。そして、つぶやくように続ける。

「優しくて可愛くて人懐っこくて、それでもって、頼もしい……」

 もちろん、そんな短い言葉だけでは想太のことは語りきれないが。

 圭が言う。

「あの子はいつも機嫌がよくてのびのびして見えるけど、ほんとは案外繊細なところもある。……さみしがりやだしね」

 琉生はうなずく。

「ああ。やっぱりわかってくれてるんだね。……想ちゃん、このところ、ずっと元気がなかったから、気になってたんだけど」

 圭がホッとした顔になった。


「……反抗期ではないんだけど。でも、親に何でも相談できるワケじゃない、そんなときもあるよね」

 静かにうなずく琉生に、圭が温かな表情で笑いかける。

「琉生くん。……想ちゃんに、君がいてくれてよかったよ。これからもずっと、一緒にいてやってね」

 圭の言葉を、琉生はしっかりと受け止める。

 思わず、琉生の口から、言葉がこぼれ落ちる。

「想太は……僕にとって、運命の人だと思ってますから」


「そうか……」

 そう言って、目を細めた圭に、琉生は続ける。

「うちの父が、よく言うんです。『たったひとりでいいから、この人に会えて良かった、心からそう思える出会いがあれば、その人の一生は、間違いなく幸せだと言えるね』って。僕にとって、想太はその、ひとりなんだと思っています」

「素敵な考えだね。そうだなぁ、オレにとっては、佳也ちゃんと想ちゃんが、そんな存在だな。オレ、ふたりに出会ってから間違いなく幸せだから」

 圭がとろけるような笑顔になる。

「ふふ……オレたち、幸せなんだねえ」

 しみじみとした口調で圭がつぶやき、2人で顔を見合わせているところへ、想太が戻ってきた。


「ごめん。おまたせ~」

「おかえり~」

 圭と琉生の声が揃う。

「あ。なんかええ雰囲気やね、2人で何話してたん?」

 想太がニコニコ笑う。

「ふふ。うちの可愛い想ちゃんをよろしく、って」

「圭さんは、想太のことが大好きなんだって、すごく羨ましくなったよ」

「うん。オレも父ちゃん大好きやで。でも、父ちゃんは、琉生のことも好きやからね」

 圭がうなずく。

「ありがとう。……さあ、想太、作戦会議、始めようよ。夜は短い」

 琉生は想太に声をかける。

「がんばってね」

 手を振る圭に、笑顔を返して、2人は想太の部屋のドアを開ける。


 さあ、何から話し合おうか。

 琉生は、キリリと気持ちを引き締める。


 部屋に入ると、振り返った想太が言った。

「なあなあ。ところで、おやつ、何買うてきたん?」


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