41. ええやん。
2コマ近くかけて、全員の自己紹介、兼おすすめの本の紹介が終わった。
40人もいれば、本当にいろんな本の話が飛び出してきて、めちゃくちゃ楽しい時間になった。
マンガでもいいということだったので、想太も琉生もマンガを紹介した。
今、2人でハマっているのが、実は、琉生の姉、おすすめのマンガだったからだ。
想太が、『動物のお医者さん』(佐々木倫子・小学館)、琉生が、『高台家の人々』(森本梢子・集英社)を紹介すると、みんながちょっとザワザワした。
2人がマンガを紹介するのは意外だったようだ。
でも、2人がハマっているのは本当で、琉生の姉、レイのマイブームのせいなのだ。彼女は、古本屋さんで、全巻まとめて買ってきて、読み終わったら、琉生や想太に貸してくれる。
「スマホでも読めるけど」と琉生が言うと、
「マンガはね、やっぱり紙よ。ゆっくりページをめくるときの、ワクワクするあの感じは、電子では味わえない気がする」
レイはそう言って、ほら、と読み終えた巻を次々、琉生に渡してくる。ついつい琉生も隣に座って読んでしまう。
確かに、やっぱり紙だな、という気もする。
リビングで読んでいると、そのうち母親もやってきて、一緒に読むこともある。
さらには、琉生から借りて帰ったマンガを、想太が家のリビングで読んで、それを見て想太のお母さんやお父さんまでが一緒に読んでいるらしい。
実は今、藤澤家も妹尾家も、家族中でマンガにハマっているのだ。
そんな話をちょこっとはさみながら、
「琉生のお姉さんがいっぱい貸してくれるおかげで、うちは、今、空前のマンガブームです」と想太が言い、
「当然、うちも空前のマンガブームです。もしおすすめのがあれば、ぜひ教えて下さい」と琉生も自分の番でそう言った。
みんな意外そうにしながらも、
「マンガならまかせて。おすすめいっぱいある!」
「やっぱり紙で読むのいいよね。目もそんなに疲れないしね」
「昔のでよかったら、うちの押し入れにあるやつ、今度貸すよ」
などと言ってくれたりもした。
自己紹介が進むにつれて、クラスの中に、みんなが話しやすい雰囲気ができていく。
琉生の気持ちも次第にほぐれてきて、周りのクラスメートと自然に笑い合ったりしているうちに、さっき感じた、ずきん、とした痛みのようなものは、いつのまにか薄れた気がする。
(よかった……)
琉生は、ホッとする。この痛みのワケを、琉生は深追いしたくないと思っている。
ところで、琉生が意外だったのは、担任の倉内が、マンガの紹介にすごく嬉しそうな反応をしたことだ。
「いや、僕もマンガは大好きです。マンガを読んでいると、遊んでいると思われることもあるけど、とんでもない。マンガでいっぱい知識を得たり、知的欲求や何かに取り組むモチベーションが上がったりすることもいっぱいありますよね」
みんながうなずく。倉内は続けて、
「ぼくは、国語科の教師ですが、僕が国語を好きになったきっかけは、マンガだったんです。子どもの頃に読んだマンガの中に出てきた和歌がすごく魅力的で、好きになったんです。そこから、日本語の美しさにどんどん惹かれていくようになってね。あのとき、あのマンガを読んでいなければ、もしかしたら、僕はここにいなかったかもしれません」
彼は、そう言ってほほ笑むとみんなの顔を見回した。
「何が自分の未来への入り口になるかわかりません。しっかりアンテナを立てて、自分の『好き』に出会えるチャンスを見逃さないで下さいね。今日は、皆さんの素敵な話をたくさん聞けて嬉しかったです。3時間目は、うちの学校についてのオリエンテーションと、委員や係決めをしますので、自分は何がしたいか、考えておいて下さいね」
休み時間は、みんなすっかり打ち解けてしゃべりあっているので、教室はすごくにぎやかだ。
自分の席を離れて、想太がやってきた。
「なあなあ。琉生は、何か委員会やる?」
「う~ん。まだ考え中。仕事もあるし……」
「せやなあ。たしかにな。忙しくなりそうやしな。……でもさ、何もやらへんのは淋しい気ぃするよな。それでなくても、オレら、文化祭とか、あんまり表に出てなんかするのはあかんもんな」
想太が残念そうに言う。
彼らの事務所は、所属タレントに、たとえ校内行事でも、表舞台に立つようなポジションはできるだけ避けるようにと制限をかけている。
「放送委員やりたいけど。仕事もあるし、やっぱ無理かな……」
想太が呟きながら、ため息をついている。
ずきん。
薄れたはずの痛みが、また琉生の胸の中に戻ってくる。
次の瞬間、琉生は思わず口にしていた。
「ええやん。……やりたいことは、やろうや。想太」
琉生は、自分の発した言葉に少し驚く。
それが関西弁だったからだけではないことに、気がついたからだ。




